夕刊フジ 1998.05.12〜14



日本版ビッグバン “最悪シナリオ”  藤原肇に聞く




 金融市場の自由化を一気にすすめる「日本版ビッグバン」(金融システム改革)が始動して約四十日。今のところ大きな混乱は生じていないが、「金融戦国時代の到来はこれから」とみる専門家もいる。昭和四十年代後半のオイルショックを預言して的中させた米国在住の国際コメンテーター、藤原肇氏(60)にビッグバンの“最悪のシナリオ”を聞いた。



無防備新外為法「偽ドル大国」に

記者:「護送船団方式」で守られてきた日本の金融機関は、ビッグバンの荒波に飲まれてしまうとも言われています。そのような改革を実行した背後には、経済戦略も担うCIA(米中央情報局)の関与がウワサされてますが。
藤原:ダメな連中が被害妄想に陥って、思い過ごしているだけでしょう。日本では、自分が痛い思いをするのは他人の仕掛けのせいだと発想する人が多いですから。金融自由化は、米国では二十年前から着々と進んでいるし、英国でも一九八五(昭和六十)年にサッチャー元首相がやっています。変な陰謀説を空想するより、日本がやっと世界の金融システムのスタンダードに近づくと考えた方がい。
記者:日米で違いがありますか?
藤原:米国のビッグバンは、ちゃんと下着を付けた格好になっているけれど、日本は素っ裸という感じです。
記者:といいますと。
藤原:米国では一万ドル以上の送金があった場合、銀行はすべてIRFという国税庁に相当するところに報告しなくてはいけない。怪しい金の動きがあればチェックが入る。ところが、日本はすべてをフリーにしようとしている。そうなったら、悪いヤツは好き勝手に金を動かせる。
記者:どうして、そんな制度になったのでしょう。
藤原:米国のビッグバンが何をやって何をやっていないか、きちんと分析できる人材が、日本にいなかったということ。米国にビッグバンのやり方を教えてくださいと頼んでも肝心なところは教えてくれないでしょうから、情報を盗まないといけない。それをできる人間が、大蔵省などにいなかったとみるのが妥当でしょう。
記者:ビッグバンの始動で今後、どのようなことが起きるのでしょう。
藤原:日本の銀行が外国の銀行に乗っ取られるとか言われてますが、乗っ取ってくれるなら、まだ救いがある。だれも相手にせず、つぶれるだけということもありえるわけですから。その典型が、昨年、経営破たんした北海道拓殖銀行。不可解な負債がありすぎて、好んで合併しようとする銀行がない。
記者:日本の金融機関が生き残るには、どうすればいいのでしょう。
藤原:有能な人材を抜てきして、おぼれないようにするしかないのでは。まず、現在の銀行の重役は行き詰まりの原因を作った戦犯だから排除する。そのうえで、日本では働く気がしないと海外に出て行った若くて有能な金融マンを迎え入れればいい。日本人で人材がいなければ、有能な外国人をスカウトしてもいい。
記者:金融機関以外への影響をどう考えますか。
藤原:ビッグバンの第一弾として、四月一日から改正外為法が施行され、コンビニでも外貨両替ができるようになった。無防備にこのようなことをしたら、日本は『偽造ドル大国』になってしまう。コンビニのアルバイトの店員に偽造ドルが識別できるのかというと、まず無理でしょうからね。
記者:日本は偽造ドルであふれてしまう?
藤原:偽造ドル以前の問題として、偽造一万円札が出回っている。しかも、使われた後で調べたら『やっぱり偽造』という状況で、偽造ドルを持ち込むヤツが大挙してくることは火を見るより明らかです。
記者:米国は偽造に、どう対処しているのですか。
藤原:FBI(連邦捜査局)が一応、目を光らせているようだけど、ほったらかしという感じ。そもそも米国は紙とインクで札を刷ればいいという感覚で、にせ札を識別する必要なんかないわけですよ。私は、米国の最大の輸出品は『ドル札』だと思っていて、それが東欧などで自国通貨以上に流通している。札を輸出品と考えれば、真贋はそれほど重要じゃない。
記者:どう対処すればいいのでしょうか。
藤原:警察庁長官が銃撃されても犯人を捕まえられない国ですからね。にせ札のような頭脳犯には対応できないでしょう。

日本の銀行が次々と消滅し、「偽造ドル大国」になるというのが、日本版ビッグバンの“最悪のシナリオ”というのだ。


大蔵省は“ペテン師”集団だ




「日本ビッグバン」の“最悪のシナリオ”を予測した国際政治コメンテーター、藤原肇氏(60)は「国際経済通」ということもあって、大蔵省の内情にも詳しい。その藤原氏は、同省の疑惑や腐敗ぶりを実名を挙げて糾弾した。


記者:米国在住の藤原さんからみて、大蔵行政はどのように映りますか。
藤原:私は、大蔵行政を(1) 秘密主義 (2) 独善主義 (3) 無能主義 (4) 先送り主義 (5) 殿様主義 (6) 水戸黄門主義 (7) ドラキュラ主義の七つの主義に分類しています。
記者:それぞれの意味は。
藤原:「秘密主義は、何をやっているのか外に出さないという意味。自分たちだけが超エリートで、ほかのやつは無知という思い込みが独善主義。無能主義は、大蔵官僚は無能という意味。私は大蔵省を『野村証券霞が関主張所』だと思っている。野村証券から情報などを得ないと何も分らないからこそ、野村はさんざん悪さができた。殿様主義はふんぞりかえっているという意味。水戸黄門には最後に印篭を振りかざして周りがひれ伏す場面があるが、大蔵省も予算編成という印篭を振りかざし、それがまた権威になっている。公益法人や公団などの天下り先を作り甘い汁を吸うという意味ではドラキュラと一緒。
記者:大蔵腐敗は米国にも伝わっている?
藤原:ある邦銀が米国で巨額損失事件を起こしたことがあったけど、その邦銀はケイマン島というタックスヘイブン(租税避難地=海外から進出してきた現地設立会社に税制上、優遇措置が与えられる場所)を使って不正な金を動かしていた。ところが、同じようなことを多くの邦銀がやっていたものだから、大蔵省が慌てて巨額損失事件を起こした邦銀に米国の捜査当局と司法取引しろと命じたという話も伝わっています。
記者:ところで、接待疑惑などで大蔵省を依頼退職した中島義雄・元主計局次長と会ったことがあるそうですね。
藤原:ある出版編集者に誘われて会いました。当時、私は米国で石油会社の社長をしていましたから、海外の日本人ビジネスマンということで気軽に連れて行ってくれたのだと思います。中島さんはまだ主計局の係長クラスだったようですが、そのときの出来事がおもしろかった。
記者:といいますと?
藤原:中国人がいっぱいいる東京・赤坂の中華料理店に連れて行かれたのですが、中島さんは中国の人と当時の大蔵大臣への贈り物について話し合っていました。大蔵大臣と中国の組織との間に何らかのつながりがあって、中島さんが大臣の子分役として動いているような感じでした。
記者:とんでもないという大蔵官僚は?
藤原:『ミスター円』なんて持ち上げられている榊原英資・財務官は、その部類に入る。大蔵省で主流ではなかったけど、英語が達者なものだから、ハーバード大学に行った。米国側が、うまく利用すれば有利に経済政策などを展開できると判断したものだから持ち上げ、国際舞台でそこそこ名が知れるようになり、大蔵省ナンバー2にまでなった。だけど、過去をたどると、ひどいものですよ。
記者:といいますと?
藤原:榊原財務官は昭和六十年から二年間、理財局国庫課長をしていて、六十一年から翌年にかけて発行された昭和天皇ご在位六十年記念金貨(十万円)の責任者でもあった。この金貨が詐欺もいいところで、金の含有量額面の半分以下の二十グラム。そんな金貨が一千万枚も発行され、国は国民から詐欺的手法で一兆円を吸い上げてホクホクだったが、悪貨をつかまされた国民は泣くに泣けない。
記者:開いた口がふさがりませんね。
藤原:しかも、大量の偽造金貨が出回って大問題になった。大蔵省は『官庁の中の官庁』どころか、国民をペテンにかける犯罪者集団です。


必罰のシステムを作れ!

政治腐敗に長引く景気停滞・・・・。崩壊寸前の大国・日本の再生の道はあるのか。日本版ビッグバン(金融システム改革)の“最悪シナリオ”を予測し、大蔵省の腐敗について証言した米国在住の国際コメンテーター、藤原肇氏(60)に「今、日本がすべきこと」を聞いた。


記者:東大法学部卒の大蔵官僚が、接待にドップリつかっていて国家公務員法に基づく処分を受けました。東大は、海外ではどのように見られていますか?
藤原:キャリア組(上級職)のエリート官僚はほとんどが東大出ですが、世界から見たら上位200番にも入らないだろう大学です。
記者:そんなに低い位置にいるんですか。
博士:米カリフォルニア大の教授が、米国を除いた大学の格付けリストを作成したのですが、東大は仏ケーン大に続いて67位に位置付けられている。この教授は、米国の大学を含めたら東大は200番以下になるだろうと予測しています。
記者:なぜ、そんな低く見られるのですか?
博士:私は都立上野高校の出身で、クラスの二割ぐらいは東大に進んでいるんだけど、実に記憶力のいいヤツとか要領のいいヤツが行っているんです。オリジナルな発想をするヤツは、あまり行ってないんだな。
記者:日本人のノーベル賞受賞者は京都大学が多いですね。
博士:要するに、日本の学問は、これから役立ちそうな外国の理論や文化などをいち早くみつけるという手法をとってきた。東大というのは、(外国の学術的な)言葉に対しては達者だからすぐ取り入れ、それで支配体系を作り上げる。東大でオリジナルな研究はない、といっても過言ではありません。翻訳ばっかり。
記者:東大は外国から仕入れたもので支配するのがうまいということですが、その割には随分とふてぶてしいような....。
博士:私の高校時代の仲間に、東大を出て国税庁の大幹部になったヤツがいるんだけど、会ったときに『お前は相変わらずコッパ役人をやっているのか』と言ったら、そっぽを向いちゃってね。一時間半も横を向いたままになっちゃった。彼らは自分たちは偉いと思い込んじゃっているんだ。本当は、ちっとも偉くないのに。発想がいかにも東大という感じで、東大卒=エリート官僚=偉いと貧弱なんだ。
記者:ただ、そんな官僚にいいように操られている日本の政治家も情けない。


欲が深いお殿様が支配する「荘園国家」からの脱却を
藤原:アメリカの場合、政治家はローメーカーと呼ばれ、法律を作る人とみられている。弁護士が多いし、私みたいに地質学をやっている人も全体の10%くらいはいる。そういう人は資源開発にも携わっていて、どこかの鉱山を掘ればいいという日本的な発想ではなく、長期的にみて鉱山を掘るための住宅や道路、鉄道はどうするかという総合的な見地から物事を考える。
記者:なるほど。
藤原:かつてのフーバー米大統領もマイニング・エンジニア(石油・鉱物資源開発者)で、大きな枠組みで物事を考え、それが外交や経済の政策にも生かされた。日本の政治家はというと、松永光蔵相のようにオヤジの遺産を引き継いで、というパターンが多い。世の中全体のことを分かっていないヤツがお殿様をやっているから、身動きができなくなってしまう。
記者:最後に、崩壊寸前の日本がすべきことは何でょう?
藤原:今、日本にもっとも求められるのは、きちんと責任をとるという精神。
記者:といいますと?
藤原:自由の裏側には、必ず責任がある。自由だけを主張すると、今度は放縦になってしまう。米国では放縦になったときのために法律があり、国務長官が腕時計一つをもらっただけでクビになっている。要は、公共の利益に反することをしたとき、モラルにもとることをしたときにきちんと処罰されるシステムを作ることが大切。それから、荘園国家から一日も早く脱皮すること。財閥などいくつかのグループが経済を支配し、業界ごとに官僚や族議員が幅を効かす。権力をもった欲深いお殿様が支配するというのが、今のシステム。だから、責任が曖昧になっちゃうんだけどね。


『必罰の精神』と『脱 荘園国家』が日本再生のカギというのだ。


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