〈特別寄稿〉
『パワースペース』第16号 1994.09.09




九州で体験した奇妙な地上巡礼(上)

藤原肇(メタサンエンチスト)在カリフォルニア



構造地質学を修め、長年国際石油ビジネスをてがけてきた藤原肇氏は、自らを称して「地球のストレスの専門家であり、地球が患者だという特殊な医学部門のプロ」と呼ぶ。型にはまらない根っからの自由人である氏は、科学から政治・経済、はては文明論に至るまで、その奥に潜む問題をかたっぱしから俎上にのせて論駁し、独自の見解を提示してゆく日本人にはめずらしいタイプである。とりわけこれまでの近代科学の限界を越えた、新世紀の学問原理としてのメタサイエンス≠提唱している点などはまさにユニークの一語につきる。

「日本には真のサイエンスがない」と嘆く藤原氏。そうした意昧深長な言葉を軽妙な語り口で論じる特殊な医学部門のプロ≠ェ、この春、奇妙な連鎖反応に導かれて旅をした。

本稿は、その藤原氏が体験した日本漫遊記である。




[藤原肇]
1938年生まれ。グルノーブル大学(フランス)理学部卒業。構造地質学専攻。理学博士。アフリカやヨーロッバで鉱山開発に従事した後で、世界各地で石油開発の仕事をしてから、アメリカで石油会社を経営。経営コンサルタントのかたわら国際政治コメンテーターとして、評論活動をアメリカを中心に展開している。世界で最初のメタサイエンスを論じた『宇宙巡礼』は、21世紀の新しい学問原理を示唆しており、台湾で中国語版も出版され注目を集めている。最先端認識科学や超意識領域の著書としては『間脳幻想』(東興書院刊)、「宇宙波動と超意識」(東明社刊)、『身体と宇宙』亜紀書房刊)、『宇宙巡礼』(東明社刊)などがある。また、最近の日本の政治問題を論じたものに『インテリジェンス戦争の時代』(山手書房新社刊)、『平成幕末のダイアグノシス』(東明社刊)、『日本が本当に危ない』(エール出版刊)などもある。




今回の不思議な旅は松江市から始まった
(注:写真は津和野)



噂の超能力者を観察する旅

 潜在意識のレベルで動いている不思議なリズムは、人間の行動を支配する連鎖作用の波として顕れる。そして、後になって展望すると多様性の統一として意味を持ち、経験自体が何かを象徴しているだけでなく、軌跡の全体が描く有義性に気づかされるものである。そんな関係の連鎖を重点的系列(Crux-nexus)と呼び、美しい帝網のネットワークのイメージになる点について、「宇宙巡礼」(東明社刊)で対談した時に張仙人が強調していた。

 帝網は弘法大師がいう即身成仏の悟りの境地だし、現代数学が開拓したフラクタルの世界でもあるが、それが至高の智慧の体系を示しているのなら、旅の軌跡が帝網になるように動いたらどうだろう。自分が絵筆になって白紙の上を動いてみて、どんな構図になるかを眺めるのも面白そうだと考えながら、半ばぼんやりした気分に包まれていたのは、1994年の4月6日の朝の寝床の中だった。

 アメリカに住む私は東京に僅か数日だけ滞在して、汽車を乗り継いで島根県の松江の町に到着していたが、母の三回忌が今度の訪日の主目的であり、法事は命日である6日の午後に行う予定だった。

 しかも、その翌日は母の故郷の津和野を訪問して、町営の郷土館に立ち寄ってから九州に足を延ばし、川棚の超能力者を観察してから東京に帰るのが、一週間を費やす国内旅行の粗筋になっていた。それにしても、最初から、九州に行く計画があったわけではなく、東京を出る時にあったのは6日の法事と共に、10日に大阪で友人に会ってから11日に熱海駅で待ち合わせて、東明社の吉田社長と92歳の塩谷先生を訪ねて、超能力についての話をする予定だけであった。

 塩谷博士は『健康・長寿と安楽詩』(東明社刊)の著者であり、植物と話をするお医者さんであるだけでなく、未だにゴルフの現役というエネルギーの持ち主だ。大地と意思疎通する私と植物と話す先生が初めて会い、どんな会話になるかが吉田さんの関心らしいが、私も安楽詩の名人に長寿の秘訣を教わりたかった。「塩谷先生はこの本を僅か一週間で書いたそうです。塩谷先生も超能力の持ち主らしいですな」と眩いた吉田さんは、私に『パワースペース』の13号を手渡しながら「汽車の中でお読み下さい」と言ったが、この言葉の中に重点的系列の発端が秘められていたらしく、この旅の進行は奇妙な連鎖反応に導かれることになった。

 新幹線の窓から久しぶりに富士の雄姿を眺めてから開くと、雑誌の中に『あの噂の超能力者はホンモノか?』と題した椎原さんの取材記事があり、それが契機で私は生まれて初めて長崎の土を踏むことになった。しかも、法事を済ませて長崎県の川棚を訪れて、噂の超能力者とやらを観察する旅になったのだが、この旅の全体図が偶然の連鎖によるものだとしたら、私を操ったのは果たして造化の天工だったのであろうか。また、無から点を経て存在の世界に移る境界に特異点があり、存在の始まりを告げて光が閃光を発するとしたら、命日の4月6日に稲妻の織り成す衝撃を受けた私は、いったい誰から奇妙なメッセージを伝えられたのだろうか。


藤原氏(左から2番目)『間脳幻想』の著者・藤井尚治氏(左端)、東明社の吉田寅二社長(前列右端)らと

年に数回帰国するという藤原肇氏は忙しいスケジュールを縫ってさまざまな人物に会うという。かつて内科医院を開設する一方で、物理的心霊現象の研究を手がけてきた塩谷信男博士との対談も今回の帰国の主目的。塩谷博士は不屈の精神力と強靱な肉体を造る“正心調息法”を考案し、92歳になる現在も現役で活躍されている(右)

エネルギーにまつわる地熱とプルトニウムの呪い

 その朝の新聞を開いた瞬間に脳裏を閃光が走り抜け、ひとしきり胸苦しい気分に支配されたが、そこには大きな活字で[もんじゅ臨界]と書いてあり、私は思わず[不吉だなア]と呟いて唸り声を漏らした。福井県敦賀市の発電所の原子炉が臨界値に達し、プルトニウム時代の幕開けが始まったという記事は、背筋を冷たいものが貫く印象を伴ったが、その日のニュースのトップは原子力発電についてだった。法事の日にこんな体験は味わいたくなったが、日本政府のエネルギー政策が狂っている点に対して、これは何かの警告のメッセージだったのかも知れない。

 折しも、北朝鮮の核兵器保有の問題に関連して、放射線研究所の査察を巡って日米韓が苛立ち、朝鮮半島の周辺にキナ臭い空気が漂っており、そこにワシントンの謀略の臭いが感じ取れた。経済的に破産寸前である北朝鮮に対して、世界第五の軍事大国と決めつけて敵愾心を煽る米国の手口は、シリアやリビアを危険なテロ大国だと敵視したり、イラクを世界第三の軍事大国に仕立てて叩きのめした、あの幼稚な魔女狩りの二番煎じではないか。プロの国際政治コメンテーターとしてのカンだと、今回の核にまつわる問題の本当の狙いは日本向けの黙示であり、北朝鮮はダシに使われた立場を逆手に取って、外交的なポーカーゲームが演じられているのに、日本にはそれに気づく政治家がいないのである。

 そう考えると連想の鎖がスルスルと動きだし、その前哨戦として日本に上陸したのがユリ・ゲラー戦法で、オカルトを使った心理撹乱が日本列島に浸透して、かなり効果的な影響力を及ぼした事実が脳裏に浮かんだ。アメリカではユダヤ人のユリ・ゲラーが程度の低い手品師で、技術のレベルも幼稚だと広く知れ渡っているのに、日本では世界的な超能力者として名声を確立している事実。これは日本人の謀略への抵抗の弱さを示すが、この性善説に由来する民族的な人の良さに加え、懐疑以前の性格として軽信に陥り易いために、この性質が付け入られる隙を生むことになる。こんな考えが潜在意識を支配していたこともあって、この朝の体験は私に興味深く思えたのである。

 感覚や意識を越えた領域での出来事に対して、人間は奇跡とか超常現象と名づけて神秘を感じるが、その背後にある大きな次元の構造を知るためには、ジグゾウパズルの断片を出来るだけ多く集める必要がある。そこで直接体験としての事実の集積のために、連鎖の重点的系列の発展に身をまかせることで、自分の動きを成り行きに従って自由に漂わせ、どんなパターンを描くかを試すことにしたのである。


衣川晃弘氏(波動研究会代表)とオバタイト鉱石(詳細は『宇宙エネルギーが導く文明の超転換』深野一幸著 徳間書店刊を参照)

近代科学を越えたメタサイエンスの展望について多角的に論じられた藤原氏の代表著作(本誌14号にて紹介)

破砕ペグマタイトと宇宙エネルギーの同調

 法事を済ませてから雨あがりの町を散歩したが、松江にはお寺が多いという印象を持っていたのに、白潟の天神様や新橋の近くの八幡宮などを始め、この日はやけに神社の境内を通り抜けた感じがした。『パワースペース』の記事に引用してあった深野一幸さんの『超真相宇宙人!』を本屋で見つけ、同じ著者の『宇宙エネルギーが導く文明の超転換』と共に購入し、九州に向かう列車の中で読むことにした。

 翌日は列車の接続の都合で伯備線で岡山に出たが、車中で読んだ深野さんの二冊の本のうちで『宇宙人…』には、[…久村俊英さんの技は正真正銘の超能力である]という記述があり、いかにもエンジニア的な性急な断定に目を見張った。事実の存在があり得ると認める態度の表明と、それを頭から信じ込むことの間には雲泥の差があり、その差異を読み抜くのが読者の眼力であるが、正真正銘という言葉をこんな形で使えば軽率になる。人間の感覚を超越する存在を大いに受入れて、奇跡と呼ぶ事象の存在を肯定する弾力性は良いが、懐疑を仮説に繋ぐ批判精神が欠けていれば、軽信は不信よりタチが悪い行為として転落の道をたどる。また、眉唾の度合がより少ない『宇宙エネルギ……』の記述の中に、[鉱物には意識があり病気を癒す]と題した興味深い記事があった。博多に住む衣川晃弘さんは超能力者であり、波動研究会を主宰して手当て治療をしているが、特殊な波動を出す花崗岩(グラニット)を商品化している。そして、宇宙エネルギーを放射するこの花崗岩は、人間の運命や生命力を大きく変えるという記事を読み、私はこの人や岩石と出会いたいという思いに支配された。

 共著の『宇宙波動と超意識』(東明社刊)で親交を得た砂生記宜さんは、オーム真言で超意識パワーを伝授する能力者だが、砂生説によると超意識パワーの感受性で区別すれば、能力者型と正覚者型の異なるタイプがあるとか。そして、私は後者のタイプに属しているそうだから、正覚者を目指して高い意識を持って人格の修養に務め、物事を見極めるように生きるように示唆されていた。だから、宇宙エネルギーの経絡をたどって巡礼する感じで、私は世界各地にある聖地や神殿を訪れたり、超能力を持つ人間や霊能者を訪問して来たが、それがこれまで多くの体験をもたらせたのである。

 そこで岡山から電話で布川さんに面会を申し入れ、新幹線に飛び乗り夕方の7時過ぎに博多駅に近い事務所に到着した。仕事時間後だのに待っていて下さった布川さんは、事務所の2階にある応接室に私を案内したが、その第一声が思いがけない偶然の一致であり、「先刻サイババから贈り物が届きましてね…」と言って、色彩の美しい絨毬を広げて見せたのである。松江から福岡までの車中で読んだ本の中で、サイババというインド人の超能力について知った私が、絨毯を目の前にして実際に触っている不思議さ。また、見せて貰った花崗岩は破砕性ペグマタイトに属し、ピラミットの玄室の赤色花崗岩の親類だが、地質のプロとしての第一印象では断層地帯の岩であった。

 日本列島でこんな岩石を産出する地域は、構造帯と関係がある場所に限られているので、北上山系、阿武隈台地、出羽丘陵、飛騨山地、熊野山塊、京都の夜久野周辺の播丹山地、それに北九州ではないかという考えを述べた。すると、布川さんは「山岳地帯の名前を並べている藤原さんが、どうして京都府の夜久野に限って町の名前をあげたのでしょうね、私はその夜久野で生まれたのですよ」と言ったので、私は不思議な一致に大いに驚いてしまった。

 日本で最も古いタイプの地層が断層に沿って露出する点で、夜久野が地質学的に特殊な場所だとは言え、偶然にしては余りにも奇妙な一致は不思議であり、布川さんの霊能力が宇宙エネルギーに作用して、波長を同調させたのなら興味深いことであった。

 宇宙の構造についての仮説を紹介したり、世界の聖地を訪問した私の体験談の披露や、宇宙のエネルギーについての布川さんの見解など、話題がつぎつぎに展開したのを見ても、2人の波長が共振していたのは疑いの余地がない。案内された寿司屋でも話は更にはずみ、日本の現状を支配している混迷について語った時に、布川さんが世直しに天災地変が襲来し、別府が火炎に包まれている様子が見えると眩いたが、その口調が実に悲しそうだったのが印象に残った。話題は尽きずにいつまでも続く感じであり、布川さんは博多で泊まったらと勧めて下さったが、私は心は未だ見ぬ長崎に引き寄せられていた。そこで、出会いの記念にサインした『宇宙巡礼』を献呈してから、雨の中を博多駅まで車で送ってもらい、私は長崎行きの終列車[かもめ43号]に飛び乗った。

(つづく)


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