「21世紀の文明社会と新しいアジアの挑戦」

21世紀型の高次元発想へのアプローチと人材育成のノウハウ




藤原肇



情報(資訊)革命の試練

 2000年を迎え21世紀まで後わずかだが、20世紀は技術集約型産業社会が主体で、その活力源が石油や天然ガスだったから、[石油の世紀]と呼びならわされたのだし、20世紀の戦争や国際政治は石油資源の争奪を軸に展開した。産業社会の発展のパターンを形態変化として捉えれば、労働集約型から技術集約型を経て知識集約型になり、米国は既に知識集約型に移行しているのに対して、日本は技術集約型を脱却できずに苦労し、呻吟している状況をMTKダイアグラムは示す。(図1)





 地球上で起きた大事件に注目して展望すると、人類はこれまで二つの文明期を体験し、農業革命で始まった第一文明に続いて、産業革命から現在までの第二文明期が続く。現在われわれが体験している惰報革命を通じ、第三文明期に移行する状況が分かるし、第三文明期は21世紀の主人公であり、新石器文明の珪石器時代に相当している。(図2)





 珪石の純結晶であるシリコンチップを加工した、コンピュータの頭脳のマイクロプロセッサーにより、情報を制御する知識集約型の産業社会は、コンピュータに強力に依存した文明である。だから、その先払いとしてY2K問題が取り沙汰されたが、これは2000年1月1日に阻定されたものではなく、コンピュータに全面依存した社会がこれから遭遇する、数々のトラブルの始まりの第一歩に過ぎない。現に、クリントン大統領はサイバー・テロリズムに対して、イニシアチブ(先制攻勢戦略)という第一級の政策を発動し、新年早々に23億ドルの予算を議会に要請している。

 国家の安全保陳を考える上での優先噸位において、これからは従来の兵器による軍事的国防以上に、サイバースペースを使った情報撹乱の威嚇に対し、その防衛措置を講じることの意義が高まっている。それは知力を動員した新しいタイプの情報戦争であり、「他の手段による政治の継続」というクラウゼビッツの[戦争]の命題と、「他の手段による戦争の継続」というレーニンの[平和]の命題が、絡み合って21世紀に突きつけている、古くて新しい「戦争と平和」の課題でもある。

 現実には北京政府やサダム・フセインのように、ハードウエア至上主義の軍事発想に支配されて、航空母艦や原子爆弾の威力を盲信し、古いタイプの軍備の増強に熱中するケースもある。しかし、それは労働集約型から技術集約型への移行期という、社会の体質に由来する制約に基づいた歪みであり、力は蓄えたり強めて圧力に使うのではなく、バランスの調整やタイミングの計測がより重要で、頭脳力の威力では国家と個人が対等になる。

 サイバースペースによる撹乱や破壊工作は、敵対する国家間を支配する行為だけでなく、国家と特定集団や集団と個人の間における、ゲームに似た挑発や破壊工作の形を伴って、安全保障の概念を根底から変革しかねない。このような情報を武器に使うチャレンジに対して、コンピュータに依存する知識集約型社会は脆弱であり、仮想現実を舞台にした試練を乗り切る上で、決め手になるのは優れた人材の確保である。21世紀の文明の決め手になるのは智慧であり、知識集約型社会の活力源が情報であるが故に、インテリジェンスに卓越した人材の育成と適材適所は、何にも増して優先で緊急の度合いがとても高い。


メタサイエンスの夜明け

アインシュタインの相対性理論から百年ちかくが経過して、量子力学の成果で宇宙や物質についての認識が高まったが、科学の概念において画瑚的な変革はないままだ。それは伝統的に物理学が科学の主流をなし、物の理学である物理学が非生命観に基づいて、発想の基盤においてリニア思考をしがちだからだ。しかし、最近になって目覚ましい発達を遂げた生理学は、生命観に基づく生の理学であるが故に、リニア思考を発展させてカービリニア思考に至っており、フラクタル構造の一般化にと結びついている。(図3)





 20世紀の科学はリニア思考に支配されたために、階層構造に基づく次元の展開が難しかったが、21世紀の主役であるメタサイエンスに対して、これから脱皮しながら飛躍に挑む過程が始まっている。大自然のあらゆる発現はカービリニアだし、汎生命観を裏づける法則性で統一されており、その本質において階層構造の見事な調和がある。

 相対性理論は対等な次元内では有効性を持つが、異なる階層においての柑対開係についてや、構造形態における裏表や内外については、見るべき考察がなされていない状熊だ。それは数量化して計測できないものを無視し、存在しないと決めつける習慣に支配されたために、無や空の領域を排除してきたからである。しかし、東洋には無や空の領域を垂要視する伝統があるし最近では、西洋でも位相数学の発達につれて、目に見えない価域へ認識が拡大しており、現在では虚数を中学生が論じるに至っている。

 しかも、DNA操作やシュミレーターの普及により、仮想現実(バーチャル・リアリティ)が日常生活の中に浸透して、意識の領域で大変革が実現する21世紀には、新しい宇宙観に対してより深い理解のためにも、メタサイエンスに結びつかざるを碍なくなる。

 宇宙は宇宙系のサブシステムだと考えれば、宇宙系統の彼方に空が広がると認識できるし、感覚が捉える実在の領域の階層移動して、ホロコスミックス上での次元を極小に向かえば、存在の最小単位の宇宙素子が極まった所で、零次元の点でメビウスの輪の特異点にたどりつく。点と無限大の大宇宙の彼方には無と空があるが、90度のひねりが次元の転換をもたらすと気づくことが、21世紀の指導的人材である証明になる。(図4)





 数理発想に基づいて概念化したホロコスミックスは、アインシュタインの相対性原理では排除されていた、他所として放置された超光速頷域を含むので、統一の場を考えるためのアプローチとして有効である。平面図法で描かれたホロコスミックスを立体化して、射影幾何学的な展開で具体的に図示すれば、円を二度直角転換した回転として得られる、ドーナツ型をした円環体(トーラス)の大宇宙図になる。(図5)





 究極的なこの大宇宙構造はトーラス体として、ブラックホールとホワイトホールを持つ太極図となり、階層構造として多次元モデルを表わし、最先端科学と易の発想の統一に結びつくが、こうした発想の普及が求められるのだ。

 しかも、大極図における陰陽転換の動態パターンは、太陽表面でのフレアや流体の渦巻きに共通した、対数螺旋に連なった運動を示している。これは大宇宙と小宇宙をシンボライズした、六芒星と五芒星の組み合わせによる、正二十面体のフラレーン(俗称:バッキーボール)を体現しており、フラレーン(巴基波爾)が発見されたことは、炭素系による21世紀の基礎素材の開発の面で、非常に明るい展望を約束しているのである。(6図)





より高い次元で見る秘伝と直角転移の意味

多次元構造を自在に思考する頭脳の持ち主が、21世紀において惰報社会の主役を演じるのであり、次元の飛躍をする秘密の鍵はメビウスの輪にあって、これは一回の捻り(90度×2)を行うことに決め手がある。直角(90度)転移でより上位の次元に立つプロセスは、零次元点を一次元の線として捉えたり、面の直角転移で三次元の立体になる例が示すのに、視座を90度だけ移すことの重要性について、はっきり認識した人が余りにも少なかった。だが、メタサイエンスが示す宇宙系統の構造の理解には、直角転移のくり返しの訓練が不可欠であり、このノウハウの習得はそれほど難しくない。(7図)





 階層構造では上位が下位を含む関係があり、ホロコスミックスはそれを明示しているが、人体と器官や分子と原子を始めとして、家と石材の関係はその具体的な例である。「人びとは科学を築くのに事実を以てするが、それは家屋の建築に石を用いるに等しい。だが、石材の堆積を家と呼ばないように、事実の集積を以て科学とは呼べない」とポアンカレが言った通り、上位の次元を心眼で見ない限り真理への肉薄は難しく、この心眼に相当するのが直角転移のノウハウである。

 このより大きな枠組みを作る目に見えないものが、非常に大切な役割を演じているのであり、直観力に富んだ心眼に直結している点で、古代の叡知の中には優れたものが多く、その寓意が神の目や宇宙との一体化である。だから、最新の技術でこれを戦略的に利用しているのが、地球を宇宙から直角に眺め降ろして監視する、人工衛星を使ったアメリカの世界政策であり、なぜワシントンが衛星技術の独占にこだわるかは、支配者にとって戦略構想の根幹に当たるからである。

 難問に直面した時に同一次元には解決策はなく、より上位の次元に必要な答があることは、洞察力の在る者には分かり切ったことだ。日本の問題はアジア関係の中に答が見つかるし、アジア問題は世界における国際関係の中に、有効な解決策があるのは自明の理である。だから、21世紀は情報の多次元化を特徴にして、動態発想が支配的な時代になる以上は、思考における直角転移に習熟する必要がある。

 これまで解り難い抽象的な理論を展開して、ホロコスミックスや直角転移を論じた理由は、21世紀に先駆的な仕事を実現するために、思考と発想の大変革が必要だからである。しかも、時間に対して90度の角度で立ち向かえば、固定化した枠組みを乗り越えることができ、特に治乱興亡の鑑といわれる歴史に対して、隠された動機や裏を読む秘訣を身につけることは、政治や経済を正しく導く歴史観の基礎になる。

 若い頃に現代史に強い関心を持ったために、私は歴史学者への道を志そうと思ったが、科学的な訓練の必要を感じて地質学を学び、40億年の地球の歴史と共に人類学や考古学に接し、フランス留学で古代から近代の歴史の現場を訪れ、天文学を通じて宇宙の創成と構造の謎に親しんだお蔭で、メタサイエンスに開眼することになった。歴史を直角に観察することで身に付いたのは、歴史書や定説と呼ばれるものへの懐疑であり、事実とされてきたことの裏側に隠れているものが、何かを知る上での批判力の開拓になった。

 昔から「歴史は権力者の自賛録だ」と言うが、「半分だけが事実の個々の事実から、真実らしい全体像を描き出すのが、歴史家の能力だ」というルナンの言葉を証明するように、中国や日本の歴史と名づけられているものは、特に古代史において余りにも疑わしいものが多い。戦前の日本史は皇国史観ででっち上げられ、藤原不比等が捏造した歴史によって、万世一系の現人神の天皇家の虚構に基づき、日本人は徹底的に洗脳されて神がかりになった。しかも、戦後になっても古墳は天皇家の墓という理由で、主要な古墳の発掘は文部省と宮内庁のタブーであり続け、考古学的な調査はいっさい厳禁のままである。


事実を抹殺し歪曲と握造の歴史を見破る眼力

中国の歴史においては更に壮大な虚構が定着しで、中華思想が永年にわたって支配して来たが、その原典に相当する「史記」が歴史書かどうかは、21世紀において検討されるべきではないか。「史記」が日本の「古事記」や「日本書記」のように、歴史書の範疇を逸脱した存在であれば、世界史の枠組みで捉えた新しい視点に基づき、事実を組み立てた新しい歴史の構築が必要になる。

 ロマン精神に漲っていた司馬遷は詩人であり、楚の詩人の屈原に傾倒していただけでなく、楚の若き英雄の項羽に特殊な好感を持っていた。しかも、李陵事件で腐刑に処した武帝を批判する代わりに、彼は周や魯を讃えたり遊侠の士に共感して、運命感を叙情に託して治乱興亡を描き、壮大な大ロマンを仕立て上げたのだった。

 だから、司馬遷を憧憬した日本の小説家の司馬遼太郎は、司馬遷を遥か遠くから崇めるという意味で、遼という文字を使ってペンネームにしたが、彼は歴史をヒントにした小説家で史家ではないのに、最近の日本人は小説を歴史と錯覚している。

 中国史の最大の虚構は中華帝国史観であり、シュメール人、ペルシア人、トルコ人、蒙古人、満洲人などを含め、すべてを中華の枠組みに入れてしまうが、中華思想は中国版の皇国史観である。それが帝国主義的な膨脹路線に便利なことは、大日本帝国の政治の軌跡と破綻が証明しており、同じ路線を北京政府が踏襲しているので、その隘路が21世紀のアジアの安定に対して、大きな懸念をもたらしかねないのである。

 1974年に洛陽郊外で秦の始呈帝陵が発見され、戦闘馬車と共に陶馬や武人桶が数千体も出土し、続いて二号と三号の遺跡も発掘されたが、二号遺跡は奇妙なことに埋め戻しされたという。この兵馬桶は人類学的にもペルシア様式であり、実物大の武人像は漢族より体躯が大型だし、着用した桂甲はダリウス王朝の兵士の装備と共通で、乗馬の耳の付け根と尻尾を結ぶやり方は、ペルシアの騎馬兵士のもので中国様式ではない。(図8)





 シュメール人が築いたジッグラトや、ピラミッドを作ったエジプトの神官たちは、天体観測を通じて宇宙の大法則を知り、それに基づいて壮大な古代文明を構築した。この古代文明は海洋民族のフェニキア人によって、海路でインドや東南アジアにも伝えられたし、タイのパンチェン文化は黒陶の竜山文化に繋がっている。また、より古い彩陶の仰紹文化はイランのウバイト文化や、西アジアのシュメール系の土器との関連で、オリエントと中国の関係が考古学的に実証され、ユーラシア大陸史の再構築が進んでいる。

 ペトログラフを含む最近の文化人類学や考古学の成果は、シュメール人が大洋の沿岸伝いに植民を行い、その延長線上に殷文化があるとも言われる。また、最近の長江文明の遺跡の発掘による成果は、絶対権力の一極化と統一を主題にした、「史記」や「十八史略」の持つ物語的なイメージに対して、新しいタイプの疑問と挑戦を投げかけている。

 書かれた歴史は歪曲や改ざんを始め捏造が可能だが、考古学を始め言語学や文化人類学に基づく、文明に対しての科学的な解明によって、構造としての社会現象の解明が行われれば遺跡や遺物の背後に深く隠れて広がる、ユーラシア大陸を貫く叡知の水脈が分かる。ピラミットやジッグラトの建築の基本である、黄金の三角形の持つ均衡の比率関係は、神殿城塞や神社仏閣の建造伎術の基礎として、奇門遁甲術や風水秘伝ノウハウになっており、地下水脈の密かな流れを掴めるのではないか。

 現代の科学は分析に基づく還元主義に支配され、自然観測ではなく教科書に従う方式のために、袋小路に迷い込んで当惑しており、自然が教えてくれるものを見失っている。太陽や月の運行が及ぼす生理現象からすれば、朝と晩に引いた風邪の性質は異なっているし、天文と生命現象の相関も新知識として蘇る。

 自然は階層的で多様な次元構成の連続であり、現代物理学の基本であるプランク定数に関して、物理学者は意味づけを試みて来なかったが、それは各システムが一回転する時の勃起電力を現わすのだ。だから、宇宙的な階層構造を理解することによって、その延長線上にホロコスミックスの無と空が、不定と無限と直交した形で存在するのであり、90度で交差する軸に宇宙の真理が潜んでいる。(図9)





 次元の飛躍を求める上で直角転移を論じたり、既存の歴史観や価値観に異議を唱えれば、時代の風潮に逆らう異端的存在になって、弾圧や排除の運命に支配されるのが世の常だ。しかし、個人は堂々と胸を張って異端を貫き通すし、体制もまた異端思想を排除するのでなく、それ相応な役割を果たさせるだけの度量を持ち、多様性が多層構造の中で生きる工夫をすることが、組織体の健康と安全を保障することになり、21世紀をより良い時代にするのである。


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