『ニューリーダー』 2014年8月号
太平洋とインド洋を結ぶ国際政治と経済戦略(中) スチュアート・アラン・べッカー ミャンマー・タイムス 営業局長
藤原 肇 フリーランス・ジャーナリスト、慧智研究センター所長 中国の膨張路線と東南アジア諸国連合の役割 ベッカー アフリカの資源地帯への積極的な進出に加え、中国が インド洋で突破口を開くと同時に、 西太平洋の諸島群で覇権主義を広げることが、地政学的に極めて重大問題であることは、これまでの対談を通じて、かなり整理した形で理解ができました。その中で、 東南アジア諸国連合(ASEAN)の役割が、いかに重要かも再確認しました。 藤原 その通りです。だが、そう簡単に論じられない意味論を含むので、歴史的な背景を理解しない限りは、問題の核心を突くのは難しいのです。 ベッカー 常識の穴を埋めることがジャーリズムの仕事で、これまで私はそれをやって来ました。 昨年の末に取材で米国に行き、MITのチョムスキー教授を相手に、インタビュー記事を纏めました。 そして、タイの「バンコク・ポスト」の二月一五日号に、ウィキリークス事件を糸口にして、言論の自由の問題として発表しました。 藤原 あのインタビューは良くまとまっていた。過去半世紀の米国の政策に関し、歴史を簡明に総括したチョムスキー博士らしい発言でした。でも、あの種の鋭い内容の発言は、日本では活字にならない。タイのメディアの言論活動の方が、日本より遥かにマシで、勇気ある言論が躍動している。 ベッカー ありがとうございます。「ベンは剣よりも強い」はずなのに、権力による言論への干渉が強まり、メディアが元気を失う時代です。だが、ジャーナリストは使命感に燃えて、勇気ある発言をすべきです。そこで、日本のチョムスキーともいうべき藤原さんに、私はもっと徹底的にインタビューしておきたい。そして、これまでのインタビューを本に纏めて、 画期的な思想を世に紹介したい。 藤原 三〇年前にコメンテータを辞めたのは、解説するのは気が進まなかったのと、答えは自分で考えるもので、説得より納得が大切だと思うからです。取材されるのは趣味に合わないにが、まあ、良いことにして始めましょう。 ベッカー 座間市で生まれたアメリカ人として、日本の政治にも精通していると思っていた。ところが、藤原さんの『Japan's Zombie Politics』を読み、まるで分かっていないと悟り、凄まじい衝撃を味わいました。まず、愛国心に反する内容の本の執筆動機と、その反応についてまず聞きたい。 藤原 私は物書きではなく観察者で、本など書きたいと思わない。でも誰も書かないから仕方なく書いた。また、あの本は政治の裏面史と共に、日本の隠れた深層心理を論じ、タブーに属す問題に触れているので、日本語版は密かに焚書された。だから、台湾で英語版を作ったのだが、外国人にはタブーが解りづらく、その辺が明らかにならない限り、問題の本質が理解できない。近代経済と富の蓄積の基盤には、麻薬取引と奴隷貿易があったのに、歴史の記述から抹殺されているが、それと似た金脈を掘り当てるためには、困難に挑む勇気と知恵が必要です。
ベッカー それではまず台湾と韓国が腰抜けという指摘の根拠についてお伺いします。因みに日本は腰抜けでないのですか。中国に外貨準備やGNPで抜かれ弱体化が目立つ日本ですが、これから何をやろうとしているのか、その行方についても知りたい。 藤原 金儲けという餌に釣られ、台湾と韓国は中国大陸に全面投資した結果、経済的な中国依存の体質が強まり、設備投資した莫大な額の資本が、現実に大陸で人質になっています。米国の市場で経済力をつけ、次に人件費の安い大陸に工場を移し、気がついたら人質になっていた―――これが両国のアブダクションです。人件費の高騰と経営不振で、倒産状態でも逃げられないし、退職金や違約金に責められて、自殺する経営者が増えており、投資家と資金が拐帯された状態です。 日本は単独では進出せずに、言葉のメリットを生かす形で、台湾人や香港の華僑と手を組み中国に工場施設を作った。日本の資本も人質の状態だが、日本人の用心深さによって全面投資はしなかった。韓国人や台湾人に似たような形では、泥沼に嵌まり込んでいない。昔から言われている形容だが「日本人は石橋を叩いても渡らない」のに、「韓国人は橋がなくても川を渡り後になってなぜ渡ったかを考える」、「シナ人は川を渡ってから橋を焼き捨てる」という通りで、民族による違いが読み取れます。 ベッカー カンボジアでもプノンペンには建てかけの高層ビルが何年間も雨ざらしのままで、そういう施工者は決まって韓国系で、 資金難のため途中で放置し、迷惑この上ない。それに対し中国式の投資は、アフリカ進出と同じパターンで、道路建設やダムエ事が中心で、 大量のシナ人を投入する。 そこには領土的な野心が透けて見えるし、 排他的な性格がとても強烈だ。ただ、韓国の島にもシナ人の進出が目立ち、土地を買って国籍まで取るなど、藤原さんの指摘は初めて耳にする話で、ただならない狙いが読み取れる。チベットや内モンゴルと同じで、侵略の変形の膨張路線ではないか。 藤原 それは十分に考えられることです。国内がある程度安定した時に、膨張路線をとったのが、シナの歴史です。 ベッカー まさに歴史は繰り返すですね。 藤原 シナの歴史も本質は似ていて、兵馬俑を作った秦の始皇帝は、シナの語源のシン(Qin)帝国を作ったし、手本にした古代ペルシア帝国は、中央集権的で好戦的な戦士集団だった。だが、漢と呼ばれる王国時代の末期に、内乱と疫病の蔓延でシナ体制は滅亡し、トルコ系やモンゴル系の遊牧民が、唐や元などの大陸国家を作り上げた。また、シン(秦)帝国の遺民は漢字文化を育て、一部は客家や華僑として離散し、シナ系であることを誇っている。これが歴史における相似象であり、生命体の繁殖パターンとして、時空を超越する力学の下に、文明と文化を構築しています。 ベッカー ただ、その問題に深入りし過ぎると、優生学の罠に嵌る危険があります。 藤原 その指摘はもっともだが、 現在起きている紛争の多くは、国家という伜組みの中における、民族的な個性認知の問題であり、これは近代が抱えた疾病である。これは正統と異端の関係に似て多様性への寛容の問題に属すし、異端審問や魔女裁判の歴史がその問題点を教えてくれています。それは生理と病理に関わって、免疫の問題と共通性を持っており、自己と非自己の関係になるし、ガンの取り扱いに結びついている。現在の西洋医学のガンの理解は、異常な速度で分裂する細胞が、異端だから取り除けと結論し、排除が有効な措置だと考え、共生についての配慮をしていない。これは自由と平等の原理として、常に対立してきた概念であり、自由主義と共産主義の問で、冷戦や熱戦を繰り返してきた。二項対立である自由と平等の理念は、人間レベルでの捉え方であり、より普遍的な概念への発展が可能だ。自由主義は無秩序を指向するし、共産主義は統治や秩序と結び、社会レベルでの信条に属すから、近代人には理解しやすい概念ではある。 ベッカー 動態幾何学やトポロジーと言われても何のことか良く分からない。もう少し具体的に。 藤原 奥義は言葉では表現し得ないので、昔からシンボルや寓意図で表し、近代になると方程式を用いている。だが、数式では零と無限はダメだから、普遍原理には幾何学しか役立ちません。そう考え二〇世紀の総括の形で、『ホロコスミックス』と題した論文を書き、 ニューヨークの国際地球環境大学 (IEEU)の紀要に、世紀末の最終年度に寄稿したら、二〇〇〇年一月号に掲載された。そのコピーはあなたに上げてあるし、『月刊 ザ・フナイ』の二〇一二年四月号に、日本語訳が掲載されています。 ベッカー 記事と図は記憶しているが、それが自由と平等の問題にまで結びつくとは思わなかった。 藤原 しかも、あなたは3.11 地震と原発事故に触れ、皇太子が環境問題に熱心だと書き、記事の中で人類の連帯を論じて、映画 『スライヴ』まで紹介していた。 環境汚染を憂慮している皇太子は、 フクシマ原発の放射能に対し、生命への影響を心配しています。また、福島の子供は免疫不全で鼻血をだし、被災者を何度も見舞った天皇は、内部被曝のマイコプラズマ疾患で体調を崩しているというのに、政府は汚染被害は軽いと発表し、事故隠蔽の情報操作に懸命です。しかも、安倍は大急ぎで秘密保護法を作り、報道規制を強化したせいで、日本のメディアは報道しようとしないが、ドイツやフランスの記者は福島に乗り込み、事故の真相を暴露し続けている。 ベッカー どうしてそんな馬鹿げた状况が、放置されているのか。 自分たちの運命を守るために国民が抗議のデモを組織するとか、ジャーナリズムがペンの力で、政治の暴走に対し批判をすべきです。
藤原 ブッシュが使った不正選挙を手本に、圧倒的な多数の議席を確保した安倍内閣は、独裁体制を張り巡らせて、国民の洗脳工作を進めています。だから、政治に突破口がないだけでなく、日本版のNSC(国家安全保障局)まで作り、言論統制の上に安倍は君臨して、いわゆる愚民政治が日本を包み、権力による暴政が本格化しています。検察と警察を飼い慣らした安倍は、新秩序を求めて言論統制を張り巡らせ、メディアは牙を抜かれてしまった。先日の『プノンペン・ポスト』の記事に、「日本に小型ヒトラーが登場し、侵略政治が動き出した」と書いてあったが、AFPが配信した北鮮情報でした。よく似た情報が数ヶ月前にも流れ、これは北京の新華社の発信だったが、いくら安倍政権が極右タカ派でも、こんな歴史認識は間違っています。 ベッカー 随分過ぎるほど遠回りしたが、やっと東南アジアにたどりつき、ASEAN諸国やカンボジア事情に、議論のテーマが戻って来ました。それにしても、藤原さんの地政学的な観点は、中国と日本に対して悲観的で、ソフトと人材面での評価も劣悪だと知って、改めて驚きました。 藤原 それは情報革命が進行する時代は、二項対立のモデルを止揚しながら、秩序化された無秩序の価値の形で、定着する世紀が始まったせいです。大自然は秩序と無秩字が共存しているが、内が外で外が内になるトーラスは、入り子構造として成り立っており、それをホロコスミックスは教唆するし、大宇宙の摂理を明示しているのです。 藤原肇 (ふじわらはじめ)
1938年、東京生まれ。仏グルノーブル大学理学部にて博士課程修了。専攻は構造地質学、理学博士。 多国籍石油企業の開発を担当する石油ジオロジストを経て、米国カンサス州やテキサス州で石油開発会社を経営。コンサルタント、フリーランス・ジャーナリストとしても活躍。『夜明け前の朝日』(鹿砦社)、『賢く生きる』『さらば暴政』(清流出版社)、『生命知の殿堂』(ヒカルランド)、『Japan's Zombie Politics』『Mountains of Dreams』(Creation Culture)など著書多数。
Stuart Alan Becker (スチュアート・アラン・ベッカー)
1961年、神奈川県座間市生まれ。 アラスカで育ちワイオミング大学で英語学、ハワイ大学でジャーナリズムを学ぶ。アリゾナの「イースト・アリゾナ・クーリエ」誌、香港の「サウス・チャイナ・ポスト」紙で活躍。ノーム・チョムスキー、ビル・ゲイツ、キャスパー・ワインバーガー、ジェラルド・フォードなどへのインタビュー記事でも知られる。カンボジアの「プノンペン・ポスト」特報記者を経て、現在「ミャンマー・タイムス」 営業局長。主な著書に「China Power Project Directory」がある。
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