『ニューリーダー』 2015年7月号





【ドローン事件】白日の下に晒されたお粗末な安全保障理念

未来の芽を摘む蛸壺発想




藤原 肇(フリーランス・ジャーナリスト)慧智研究センター所長(理学博士)


国防国家路線が進行する中で官邸に簡単にドローンが侵入

 良く知られているマキアベルの言葉に、「なぜ古代では秩序が保たれ、なぜ現代では無秩序が支配しているかの理由の解明は、これまた簡単である。総ては、昔は自由人であったのが、今では奴隷の生活をするしかないためである」がある。この言葉を他人事だと感じるならば、それは自由についての感覚がマヒし、本当の自由が何か分らなくなっている証拠である。
 自由がなくなり政治が「共通善」に反し、権力を私的に使う状態を暴政と呼ぶが、住民が権力を恐怖に思う状態を指す(詳細は拙著「さらば暴政」清流出版)。最近の安倍内閣の政治手法は、基本的人権を踏みにじると共に、集団的自衛権の行使を口実に、臨戦態勢を確立しようと、次々に自由の抑圧を実行している。それは「戦争がやれる国」への歩みであり、国民を監視する「日本版NSC」設置を始め、それに付帯した秘密保護法の成立や、武器輸出の既成事実化などが続いている。
 日本では憲法四一条で「国会は国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と規定する。だが、政治の手続きが無視され、国会を軽視する少数の権力者が決める閣議決定を中心に政治が行われている。もはや民主主義は形骸化している状況だ。しかも、国会で十分な討議も行わない状態で、強行採決で強引に法律を成立させる手口が、安倍政権によって常套化、ナチス化している。
 その典型が「特定秘密保護法」である。これは警備公安警察の頂点にある、内閣情報調査室が準備を進めたもので、治安維持法を越える国防保安法に等しい。公安担当記者だった青木理氏によると、「国家安全保障担当の首相補佐官の礒崎陽輔氏が、警察官僚主導でこの法案を準備した」という。礒崎氏は総務省大臣官房参事官から代議士になり、神道政治連盟に所属する国家主義者で、自民党の改憲草案を作ったタカ派議員である。
 こうした国防国家路線が進行する中で、安倍内閣の砦である官邸に、小型無人機「ドローン」が墜落するという、実に珍妙な事件が発生した。機体は黒く塗られたうえに、放射能を持つ土と液体が積まれ、一シーベルトの放射性セシウムが検出された。当初、安倍内閣はテロ攻撃だと大騒ぎしたが、犯人は反原発の元自衛官だった。
 とはいえ、墜落場所が首相官邸だったにもかかわらず、二週間近くも発見されず、警備の面で手抜かりがあったことは否定しようがなく、事件を軽視できない。かつて自民党の石破茂前幹事長は、デモを「テロ行為」と言ったが、ドローン事件こそテロ行為に属しているし、宣戦布告に等しいものかも知れない。国会議員にとって何が危機管理なのか、改めて問うてみたい。

軽率で危険な「蛸壷発想」
進化を続けるUS宇宙軍

 首相官邸の屋上に落ちたドローンは、中国製のヘリコプター型の小型無人機で、誰でも簡単に買える無線操縦装置である。
 警備上のミスの責任への対応から、購入制限や飛行禁止について、取締りの法制化の議論が始まり、規制の検討が始まっているという。オウムのサリン事件の教訓もあり、テロに使う危険性があると考え、警察は取り締まりたくなったのだろう。だが、こうした議論に巻き込まれたら、警察官僚の思う壺である。そんな「タコ壷発想」は軽率だし、むしろ危険である。
 ニューヨークで起きた9・11事件は、バーチュアル時代の幕開けを告げ、レーザーと宇宙次元のIC技術を組み合わせた無人機による攻撃の実用化に繋がった。ソ連崩壊、冷戦終結後に、米国の一極支配が確立したのは、スターウォーズ計画と呼ぶSDI(Strategic Defense Initiative)が、実際的な成果をもたらしたからだ。しかも、多くの波動兵器が既に実用化されており、環境破壊兵器も秘密裏に完成し、兵器の世界の変化は目まぐるしい。それだけに、電磁兵器(Haarp)の存在が取り沙汰され、気象兵器禁止条約まで締結されているのだ。
 しかも、米国では、一九八五年に「US宇宙軍」まで創設され、コロラドスプリングに司令部を置いた。さらに、新しいハイテク兵器の発達と採用により、この宇宙軍は二〇〇二年に再編成され、アメリカ戦略軍に統合されている。こうした情報に日本人はあまりに無知である。
 現在の軍事技術の先端領域では、レーザーやGPSの活用によって、遠隔操作に基づく戦闘に移行している。この分野では米国とイスラエルが技術面で優れ、実際、戦争の性格が大きく変化している。だから、パリとロンドンの兵器ショーに代わり、現在ではヨルダンのアンマンが、国際兵器取引で注目を集めており、世界中から将軍たちが訪れている。
 しかも、湾岸戦争で威力を発揮し、実用性を確認した米国政府は、911事件がテロ攻撃だという口実を使い、アフガン戦争を開始している。しかも、多くの波動兵器が既に実用化されており、環境破壊兵器も秘密裏に完成し、兵器の世界の変化は目まぐるしい。それだけに、電磁兵器実を使い、アフガン戦争を開始している。これが無人機(UAV)の本格活用に繋がり、米軍の戦術は大きく変更された。
 続いて突入したイラク戦争では、パイロットは地上のモニターの前で、遠隔操作による戦闘に参加し、戦費節約と戦果の実現に貢献した。
 海兵隊はもはや緊急上陸用の殴り込み部隊で、未来戦争の主役ではないと、ペンタゴンの上層部は熟知している。現にアフガン戦争には無人機が、二〇〇〇機近くも投入されており、パイロットはカリフォルニアの基地で、モニターの前で操縦桿を握って、実戦の操作を行っていたのである。
 二〇一一年三月の3・11震災で福島原発が爆発事故を起こし、東電や日本政府が、ヘリコプターで事故を把握しようとしていたのに対して、米軍は無人偵察機のグローバル・ホークを飛ばし、事故現場を上空から撮影していたのだ。米政府は日本の危機管理能力の粗末さを確認した。そして、日本政府に対してアメリカ人専門家のN・C・カストを首相官邸に、駐在することを要求し実現したが、外国人の官邸業務への介入は、統治権の完全な無視と侵害で、言語道断である。


海兵隊を過信する幼稚性
遅れるナノテク、3Dロボット

 パイロットの養成は長い時間と共に、何億円も訓練のコストがかかる。また、一台数百億円もする有人飛行機よりも、電子時代のハイテク無人機の方が、はるかに経済性が高く安上がりである。そこでペンタゴンの上層部は、武器体系の大幅な手直しを行い、レーザー兵器や無人機に比重を移した。エリートの海軍や空軍にとって、効率のいいドローンや波動技術が、優先視されるのは当然のことなのだ。
 そして、不用化した有人機は払い下げ、後進国の軍隊に売り払うことにより、兵器市場を維持しようと考え、それを同盟関係の体系に組み入れた。自衛隊のオスプレイ購入はその一事例である。
 すでに米軍では、海兵隊は下層視され、「ジャーヘッド」と蔑称され、捨て駒に近い扱いを受けている。だが、そうした構造を見抜く能力がなく、海兵隊が万能と思い込んでいるのが日本政府だ。沖縄の基地の死守しか考えず、普天間基地の移設問題に関して、辺野古を埋め立てれば良いと思い込み、強引に工事を進めようとしている。
しかも、連休を利用して訪米した安倍首相に対して、オバマ大統領は合同記者会見で「日米防衛協力の指針として、地元住民の負担軽減を目指し、沖縄を含む地域の米軍基地を、移転する努力を強めていく」と表明。さらに「海兵隊を沖縄からグアム島に向けて、移転させることを推進する義務を確認した」と論じた。この重要な米国の意思表示に対して、日本のメディアは鈍感であり、注目して報道することもなかった。
 すでに海兵隊の一部が極秘で台湾に移転を開始しており、沖縄のトラブルの外に立つ形で、米軍の極東戦略は動いている。だが、目先のことしか理解できない日本の外務省や首相官邸は、全くピントはずれの対応しか出来ず、アジア・ウォッチャーの特派員たちから嘲笑を買っている。
 さて、米国ではドローンの民間利用が進み、農業や森林の分野で活躍しているし、アマゾンが商品の発送を計画している。カリフォルニアは新技術のメッカとして、多くのベンチャー企業が育ち活躍している。それが可能なのは、自家用機や航空機の民間利用に対し、政府の規制が少ないからで、日本を二〇年あまり引き離している。
 日本がロボット大国だと胸を張り、製造工程にロボットを活用して、生産力を誇ったのは十数年ほど前だった。確かに固定したロボット技術や、ロボット人形のレベルでは、日本人は能力を発揮したが、産業の空洞化でそれも崩壊した。今は3Dプリンタで銃器が作れる時代であり、東南アジア諸国も3Dを活用し、産業の発展に活用しており、日本の技術の優位は崩れ始めている。現に、ヤマハ発動機が無人ヘリを試作しているが、火星や月面で使うロボットでは、NASAが設計した動的ロボットに較べて、残念なことに発想の見劣りが目立つ。
 アメリカ人はハリウッドにおいて、映画化の時に技術を活用するが、日本人がイマジネーションの力を駆使して、作品をコミックの形で描いても、実際の技術面では格段の差がある。だから、中国製の玩具レベルのドローンが、官邸に落下した事件に対して、全く幼稚な騒ぎ方しかできないし、役人は直ぐに規制を考え始め、国民の自由を奪おうと狙うのである。
 昔からラジコン型の飛行機があったが、誰もテロの凶器とは考えなかった。こんな玩具レベルの飛行体に怯え、新技術の可能性の芽を摘もうと、法で規制することを考えるのは、より良い未来への希望を持てず、退嬰的な発想しか出来ないからだ。先端技術の芽を摘むのではなく、テロなどが発生しない社会と、健全な発展を目指す政治を実現し、信頼を復活するのが急務ではないのか。
 いまの日本の政治はほとんどが警察官僚の出身の官房副長官が牛耳っている。安倍首相は公務員の実務経験もないし、甘やかされた世襲代議士である。だが、彼は官房副長官だけは経験し、その権力を使って言論統制を行い、NHKの番組に干渉した過去があり、警察官僚に似た権力意識を過剰に持つ未熟な政治家である。
 今ここで日本人に必要なのは、日本の現状を冷静に見つめて、「井の中の蛙」に等しい島国根性を改め、世界に通用する良識を武器に、未来に対して挑戦することが、何にも増して優先事のはずである。
 そして、国民の創意力と自由な発想に基づき、次の世代が希望に満たされた心で、快活に生活できる国造りを行い、相互信頼と協力関係で支えあう、明るい社会を築くことが急務である。


記事

inserted by FC2 system