『LA INTERNATIONAL』 2002.09月号



不老長寿の仙薬「霊芝」
台湾が誇る恵森有機実験農場の霊芝(れいし)菌糸栽培所を訪ねて

文と写真 藤原肇(理学博士)アメリカ在住



霊芝の子実体




仙薬の王者と発見者と秦の始皇帝と謝森展さん

 霊芝という名前には不思議なイメージが伴い、その文字や音に何ともいえない神秘な印象があって、いかにも薬効あらたかという気がする。しかも、長生きや健康と密接な関係があるだけでなく、病魔を撃退してしまいそうな感じだが、それは深山渓谷の地に自生していることで知られた、霊草、霊芝、霊茸の仲間のせいだろうか。
 昔から仙薬の王者として知られている霊芝は、不老長寿と結びついた物語に登場しており、始皇帝が築いた秦帝国の歴史を記録する「漢書」に、「海の彼方の蓬莱島に徐福を遣わし不老不死の仙薬を求めさせた。徐福らは多くの珍宝や三千人の童子と童女、それに五殻の種や百工を伴って出発した」とあり、これが有名な徐福伝説の起源になっている。
 蓬莱島に不死の仙薬を求めて船出した徐福は、日本では紀伊半島の熊野を筆頭にして、鹿児島県の串木野市や富士吉田などに墓碑があり、日本渡来の伝承の地は50ヶ所を越す。また、中国大陸でも華北から杭州湾にかけて、徐福にまつわる伝説を持つ土地も多いし、台湾人は蓬莱島が台湾だと考えているので、徐福は一人ではなく複数の方士だと考えれば、薬効のある霊草、霊芝、霊茸の産地は、総べて徐福との因縁で結ばれることになる。
 そんな中で自然環境と科学の成果を結びつけ、霊芝菌糸を現代の霊薬(elixir)として供給するために、霊芝を培養している生化学研究所が台湾にあり、20人あまりの科学者や技術スタッフが働いているが、そこは有機農場が経営する付帯設備でもある。
 恵森有機実験農場を持つ謝森展さんは山林地主であり、長らく自然環境の保護運動のリーダーとして、台湾の森林資源保全と有機農法を指導して来た。そして、自ら新竹県北埔郷に広大な農場を営み「東方美人茶」の生産や有機ミカンを栽培しているし、台北では出版社をはじめ幾つか会社も経営する。だから、八面六ぴと形容できる活躍ぶりだが、自由自在に使う日本語と情報網を背景に、台湾日本研究会の名誉理事長の仕事でも忙しい。(本誌6月号記事参照)


熊野の徐福廟

徐福の肖像

菌霊芝の薬効の秘密は糸にある

猿の腰掛けとその贋物にご用心


謝森展氏と著者(右)

 台湾に自生する霊芝や霊茸は千種以上もあるが、その中で薬効を持つのは数十種類であり、多くの分析や動物実験の結果から見ても、免疫力の面で威力を持つのは数種に過ぎず、菌糸と呼ばれる部分に決め手があるという。霊芝が属すキノコは一般に菌類と呼ばれて、寄生を主体にする最も原始的な生命体だが、一般にキノコは生活環と呼ばれる生命サイクルを持つ。そして、胞子の段階から菌糸を経てキノコ状の子実体になり、キノコとして傘と茎が料理に用いられるせいで、太古からその風味が食卓を賑わせて来た。
 キノコの傘の部分にも菌糸層は存在するが、これまで報告された多くの動物実験では、菌糸体に最も強力な免疫強化作用があって、ガンや肝炎の治癒に威力を発揮すると分かり、昔からの言い伝えの正しさが確認されている。傘や茎の子実体や胞了を摂取するよりも、胞子に栄養を与えて丁寧に培養して、質の良い菌糸の育成と抽出することの方が、霊芝を利用する上でより有効だと分かったので、培養プロセスとその実用化が図られた。
 実際に「さるのこしかけ」の粉末を大陸から輸入して、霊芝だと言って売っている業者も多いが、霊芝が「さるのこしかけ科」だからといって、さるのこしかけの粉末を有難がっていたのでは、迷信と大差がないというのが謝さんの説だ。免疫細胞の活性化に貢献する機能を持つのは、霊芝の菌糸を主体にした低分子多糖体であり、肝炎や制ガン作用の面で注目されているだけでなく、鎮痛・鎮静作用や去痰効果が活用されている。
 霊芝の漢方医学の側面を調べるために、30冊ほどの漢方書を読んでみた結果として、茂兼仁さんが書いた「東洋医術シンクタンク」(東明社刊)に最良の説明があったので、その主要部分を以下に引用させて頂いた。



成長途上の元気な霊芝




培養中の霊芝



血液の流れが悪くなってガンになり易い

 「さるのこしかけも大分前からガンにもてはやされている。さるのこしかけの一種かわらたけのエキスから抽出したPSKは、人体が生まれつき持っているガンに対する抵抗性を高め、それによりガンを抑えようとする免疫療法の薬として登場した。PSKはタンパク質を含む多糖体が成分で、消化器のガン(胃、腸、食道)に特によいとされている。
 [猪苓]はさるのこしかけ科のちょれい、まいたけの菌核であるが、大部分を輸入に頼り、高価な生薬である。猪苓は利尿、解熱、止渇作用があり、これの入った代表的な処方に、五苓散、猪苓湯があり、膀胱炎、尿道炎、淋病、腎臓病によく用いられるが、猪苓の制ガン効果には注目されなかった。それが、研究によってかなり抗腫瘍活性があり、有効成分の中核はグルカン(多糖体の一種でブドウ糖が沢山つながって組み立てられた物質)であることが分かった。ガン細胞は外部からの侵入者でなく、体内にあった正常細胞が何かの理由でコントロールを失い、ムヤミに増大したものであるから、菌類に含まれる多糖体に制ガン効果があるのは、生体の抗体産生力を高めてガンに対抗させ、異常なガン細胞を抑えこむためと考えられる。[茯苓](ぶくりょう)もさるのこしかけ科のキノコの一種で、松の根に寄生する。漢方処方には広く用いられているが、利水作用がある。体内の水分が滞っていることは軽い炎症があることで、これに茯苓を用い炎症を改善して組織液の流れを良くする。炎症を抑えることは細胞の活性を高めることで、これによってガンを抑え、ガンの予防と治療につながることになる。水分のように血液の流れが滞ることを淤血というが、淤血をおこす体質はガンを起こしやすい。子宮筋腫のあった人はガンになることがある。体液の流れがよくない者は細胞の活性が劣り、ガンに対する抵抗力が弱くガンになりやすいと言ってよいだろう」


霊芝菌糸の培養と動物実験が実証した免疫力

 国立中国医薬研究所のB型肝炎部長と兼任で、謝さんの霊芝菌糸栽培所を指導する潘念宗博士は、かつて蒋経国総統の主治医だった経歴を持ち、肝炎に関しての権威であるだけでなく、インシュリンやセロトニンについても詳しい。霊芝菌糸の活用による免疫賦活効果は素晴らしく、如何に良質の菌糸を培養したものを抽出するかが、霊芝の医薬効果を生かす上での決め手になるので、科学的な菌糸培養に取り組むことにした。
 霊芝菌糸を培養するに当たって裏山に入り、理想的な霊芝を捜し求めて採集したものが、祖系標本として研究所に保存されていて、最初にそれを見た時の印象はミイラの手のようで、漆黒の霊芝との出会いは実に奇妙だった。だが、乾燥して非常に軽くなった子実体の中には、褐色の最粒胞子が充満して溢れており、それを栄養豊かな溶液で培養して育てた、二代目の腎臓状の子実体の胞子が菌糸体を供給し、黄褐色の霊芝の大量生産が軌道に乗るようになった。
 ネズミや兎を使った実験で免疫力が実証され、他の薬草や有効成分との組合せによって、肝炎やガンだけでなく神経痛や感冒に有効な、十数種類のカプセルや粉剤の供給が実現した。最も代表的なのがB型肝炎用の101号だが、これが霊芝菌糸の培養の始まりに結びついた。

霊芝菌糸のプロセス化




自然治癒力を引き出す霊芝療法


乾燥状態の霊芝




製品化した霊芝菌糸剤

 そのエピソードが実に感動的だったので、インタビューの模様を再現してみることにする。

藤原 どんな動機で霊芝菌糸の培養を始めたのですか?

 8年ほど前に二番目の息子が米国に留学し、博士課程を選んでいるので猛勉強したらしく、そのために疲れて病気になってしまいました。

藤原 米国の大学は学生に大量の本を読ませますからね。

 日本ではC型肝炎が多いが台湾ではB型肝炎が多く、徴兵に行っている間に感染するために、男性の三分の一が潜在的な肝炎患者だが、若さのお蔭で元気だから発病は少ないのです。だが、息子は試験で疲れ果てて急性肝炎になり、大学病院に入院したが段々と重くなり、もはや肝臓移植しか残された手段がなく、点滴だけという状態に陥ったのです。

藤原 肝臓移植をするとなると大きな賭になりますね。

 そうです。病院の空気は治療には余り良くないし、身土不二が健康にとって最良だから、飛行機に乗る体力が残っているならば、台湾に連れて帰ってやりたいと考えました。そこで連れ戻してから台湾の病院に入れて、輸血や点滴による治療をしたのですが、英国に留学した経験を持つ主治医が「奇跡を待つしかない」と言うのです。その時に、自然治癒力を引き出すのに霊芝療法が良く、肝炎には最高だと潘先生が忠告してくれました。

藤原 主治医に見放された親への救い主ですね。胸腺を強くして免疫力を高めることは、T細胞の機能昂進でリンパ系の活性化をして、腫瘍免疫の上で絶大な威力があります。

 潘先生は米国に住む西洋医学の医師でしたが、霊芝菌糸を是非とすすめられた時には、父親として大冒険でも命が助かればと考え、半ば神に祈る気持ちで試みることにしました。何しろ最初はメンケン現象で悪化したせいで、大いに不安で心配ばかり続きましたが、次には好転して笑顔を見せるようになり、数ヶ月後には元気を取り戻しました。

藤原 一命を取り留めて本当に良かったと思うが、潘先生のアドバイスの威力が絶大だった上に、霊芝と若さのお蔭だと言えそうですね。




良い自然環境の保全が最高の霊芝を育てる

健康の素と不老長寿の秘密


乾燥状態の霊芝

 全くその通りです。あの時に使った霊芝菌糸はシアトル産でして、ワシントン州のきれいな空気で育った霊芝でした。私の農場は空気も水も土壌もいいので、絶対にいい霊芝があると信じて捜しまして、潘先生に動物実験や分析をして貰ったら、成分も効果も最高だという折り紙がつきました。

藤原 キノコの生育には湿度、温度、植生、土壌に加えて、清浄な空気と柔和な太陽の光が肝心だから、この農場の自然環境は理想的だったのでしょう。

 そうです。ここの朝日は台湾で最もまろやかですし、この周辺に湧き出る温泉はラジウム泉であり、土壌調査によると0.25から0.35くらいあって、張学良さんが40年以上も近くに住んでいたが、彼は100歳になっても元気一杯でした。

藤原 峨眉という地名からしても、素晴らしい土地柄を現していますよ。

 日本では80年代に霊芝(万年茸)の研究が進んでいて、私も息子の命を救ってもらった恩返しに、米国から戻った潘博士の指導で霊芝の培養を始め、現在では生産も軌道に乗るようになりました。この霊芝を飲んでいると風邪を引かないし、体調も良くて体の中を気が順調に巡って、百歳以上も長生き出来そうな感じがします。

藤原 気がスムーズに巡ることが健康の基で、不老長寿の秘密はそこにありそうです。

 良質の霊芝菌糸を作って皆に使って貰えば、私が効果を大きな声で説明しなくても、理解者たちが広めてくれるに決まっています。だから、99年9月21日の地震で台湾が大混乱した時に、被災者やボランティアの人が傷やストレスで大変だったので、私は101号や505号を差し上げて使って頂き、大いに活用して元気になってもらいました。

藤原 地震の後のストレスでの不安や過労のために、免疫機能が低下したことは十分に考えられるし、それに霊芝菌糸が役立ったのは素晴らしいですよ。

 汚水が溢れて伝染病蔓延の恐れもあったが、それに対抗するのは免疫を強めることだし、大地の恵みの霊芝が皆さんの役に立ち、本当に嬉しいと生き甲斐を感じました。




[参考資料]
万年茸(Ganoderma lucidum)
 担子菌類ヒダナシタケ目サルノコシカケ科、ウメなどの広葉樹の切り株、枯れ木の根元、まれに生木の幹上に生じる。子実体の殼皮がコルク化して硬くなり、幸茸、霊芝とも名づけられる。子実体の傘は腎臓形まれに円形になる。表面の殻皮は滑らかで艶があり、赤褐色または紫褐色。下面は黄白色、コルク質、成熟すると肉桂色を帯び、細かい円形の孔口を持つ。茎は黒色で漆を塗ったような光沢がある。胞子は卵形、淡黄褐色。(部分略)。「エンサイクロペディア・ブリタニカ」より


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