激突討論
『週刊サンケイ』 1977年11月10日号




1980年・日本の破局

堺屋太一
藤原肇



1973年、突如、日本を襲った、あの石油ショック=B以来、日本経済は高度成長がピタリと止まり、いまや気息奄々のテイである。ところが、3年後の1980年、前回の比ではない未曽有の大パニックが日本に襲来するという。いわく、「日本は壊滅する」――と。その時、日本はどうすればいいのか。はたして、生き残れるすべはあるのか。これは、石油・資源問題のエキスパート2人が、豊富なデータを駆使し、火花を散らして語リ尽くした絶望的「日本未来論」――。



出席者のプロフィル

  ■堺屋太一(さかいやたいち)
作家。本名を池口小太郎といい、本職は通産省工業技術院のお役人である。1960年、東大卒業後、通産省へ入省。3年後、28歳にして大阪万国博のアイデアを提出、その後、沖縄海洋博のプロジェクトをスタートさせるなど、ニュー・エリート≠ニして脚光を浴びた。75年には、石油危機を素材にした小説『油断』を発表、一大センセーショナルを巻き起こし、作家としての地位も確立。『団塊の世代』『破断界』など話題作を次々に送り出している異色官僚≠ナある。42歳。

■藤原肇(ふじわらはじめ)
カナダ在住の石油地質学者。1963年、埼玉大卒業後・フランスに留学。構造地質学、石油地質学を専攻し、理学博士となる。その後、石油・資源開発のコンサルタントとして、アフリカ、中東、欧州で活躍。71年ごろ、2年後の日本の石油危機を予言、的中させた。現在は『ベトロフィナ・カナダ社』に勤務、このほど5年ぶりに帰国した。外から見た日本観は定評がある。著者に『石油危機と日本の運命』(サイマル出版会)、『日本丸は沈没する』(時事通信社)など。39歳。

■鹿島茂男(かしましげお)
『ビジネスジャパン』(日本工業新聞社発行の英文月刊誌)編集長。第四次中東戦争後の1973年12月、サンケイ新聞ベイルート特派員として赴任。76年8月に帰国するまで、2年7か月中東に滞在。現地の情勢をつぶさに目の当たりにした。レバノン内戦、最後の邦人引き揚げ組の一人である。47歳。




かつての超優良企業が破綻で終末を迎えた悲劇

鹿島 藤原さん流にいいますと、お二人は職能的な予見者ということになるわけで、1973年のオイル・ショックでその予見がズバリ当たって、日本人は大変驚かされたわけです。あれから4年経って、今は一見落ち着いている感じですが、根本的に日本が石油に弱いという面に変わりはありません。1980年代には、ふたたび危機が到来して日本丸は沈没するという見方もあります。そこで、石油を中心にして、日本の直面している危機の実感を明らかにしていただきたいと思います。

藤原 次にくる石油危機は、僕が6年前に予想していたものとは比較にならないぐらい強烈になると思いますね。71年の時点では、日本の主体的な条件を克服すればある程度やっていけると思っていたけど、今度はそれにプラス外部要因が絡みついて、もはや日本の手には負えない状態になると思う。おそらく、1980年代の前半には、それが日本を襲うのではないか。

鹿島 その外部要因というのは、どういうものですか。

藤原 まず第一に、予測される石油危機を克服するためには、いろんな形の投資が必要です。ところが、それに要する金はとてつもなく膨大なものになる。たとえば、毎年1000億ドルぐらいが石油投資に必要というふうにですね。これはアメリカだけの数字ですから、全世界にすると最低、その倍は必要でしょう。もしかすると3倍かもしれない。今、たとえば中東諸国の持っているオイル・ダラー、500億から600億ドルのうち10パーセントをチューリヒからロンドンヘ移動させるだけで、世界経済は混乱するぐらいですからね。1000億あるいは2000億ドルの金が石油開発に投資されなければならないとすると、IMF(国際通貨基金)やガット(関税貿易に関する一般協定)などをべースにした世界経済秩序は維持できるかどうか、これが第一。

鹿島 おそらくIMF体制は崩壊するでしょうね。

藤原 第二に、いわゆる中東自身の問題があって、これが2つに分かれる。中東問題というと堺屋さんなんか、おそらくアラブ対イスラエルを中心に論じるのではないかと思うけど、それは1980年代の主要な中東問題にはならない。

堺屋 いや、ア一アブ対イスラエルなんか中心に据えてはいませんよ。

藤原 1980年代の中東問題というのは、一つはイランとサウジアラビアの間の伝統的な対立関係です。イランというのほ、いわば戦前の日本が満州などに膨張していったようなパタ―ンを、他のアラブ諸国に対してとっている。たとえば、世界最大のボーバークラフト艦隊を作ったし、アメリカから航空母艦を買う交渉をしたり、非常に軍国主義的な傾向がある。
 それと同時に人口が多く、3700〜3800万ですね。サウジアラビアは500万人前後ですから、人口比率が非常に違う。で、イランでは一部の特権階級を除いて、教育水準は非常に低く、国内をはみ出した連中が、それこそ戦前の満州開拓団と同じで、クウェートやサウジアラビアにどんどん出かけていく。たとえば、クウェートなんか、人ロ比率でイラン系がどんどん増えていくというので乗っ取られるんじゃないかと、非常に恐れているわけですよ。イランは古代ペルシャ帝国以来の中華思想が強烈ですからね。


二つのエネルギー危機に直面

堺屋 我々が現在直面しているエネルギー危機というのは、二つあると思いますね。一つはいわゆる「油断」現象。1973年の「油断」は政治的、外交戦略的な形で行われたため、短期かつ量的にも浅くすんだけれども、今度は話し合いでは解決のつかない、物理的破壊を伴うものになるのではないかと非常に懸念しているわけです。それはイスラエル対アラブの間題じゃなしに、藤原さんのおっしゃることに関連しますけど、アラブ諸国の社会問題です。たとえば、クウェートの人口は95万人ですが、クウェート国籍を持ったクウェーティーは20万そこそこ。あとの75万人は在留外国人です。この外国人たちは、宗教も人種も言語も同じなのに、非常に差別を受けているというので、不満を持っている。そこへ火がつくと、紛争はかなり長引くし、のみならず国際化する要素を持ってるわけです。これはサウジアラビアにしても、アラブ首長国連邦にしても、いわゆる宗教王制の国は同じような危機を抱えている。

藤原 私がいう中東問題の二番目のテーマがそれです。サウジアラビアの場合は、40年前まで鎖国制度をとっていた。それで、サウジアラビア人は貴族であり、外部からきた連中は肉体労働者である、奴隷であるという差別感が根強い。ところが、近代化を進めていくに従ってテクノクラートやエンジニアクラスには、レバノン人・パレスチナ人、イエメン人、シリア人という連中が、大多数を占めるようになって、国内に不満が高まっている。これからますます人材が必要だとなると、どんどん外部から導入しなきゃならないわけですが、ということは、同時に外部の先鋭分子が入り込んでくる危険性も多いということです。その先鋭分子が、なにか事が起こった時に、内部の反体制あるいは反王室の連中と一緒に行動するのではないかと考えられる。

鹿島 とすると、サウジアラビアは、クーデターの可能性が非常に強いわけですか。

藤原 一方、イランの場合も、1953年以来のモサディク派の弾圧で2万人ほどの学生やインテリが捕まって、いまだに監獄にぶち込まれているんです。僕はヨーロッパにイラン人の友達がたくさんいますが、彼らは親戚の誰それはいまだに監獄にいる、あのシャーの体制は引っ繰り返さなきゃいかん、というような調子で話すんです。赤軍派なんかとは関係のない、非常にマジメな奴が、そういってるわけですよ。だから、何か起こるなと思うんです。

鹿島 すると、両国はそれぞれクーデターの危機を抱えながら、かつお互いに衝突の危険もあるわけですね。

堺屋 アラブ問題を考える場合には、やはりアラブ人の考え方に従って考えるべきですね。日本人とは倫理観が非常に違う』

藤原 現象的には、アラブ人というのは、日本人からみると浪花節的にみえる。それで、つい日本人は浪花節的なアプローチをするわけだが、連中の浪花節はスケールが百倍も千倍も大きい。たとえば、自分が王になるためには、弟を殺しても権力をとるというスケールで、吉良の仁吉や国定忠治の発想じゃ通用しないですね。

堺屋 倫理観の違いをいちばん端的に表現しているのは、「血であがなえるものを、汗であがなうのは卑怯者のすることである」という考え方ですね。これはもう絶対条件だ。ところが、戦後の日本人は、「血であがなう人は悪人、汗であがなう人は勤勉で偉い」という考えで、まったく逆ですね。このアラブの基本的発想からいうと、戦乱を国際化する非常な条件になる。だから、レバノンの戦争なんか、どことどこが戦争しているのかよく分からん。シリアの軍隊がいる、パレスチナがいるというふうに、すぐ国際化するわけですよ。ですから、石油の値段が上がり、貧富の格差が急速に拡がるにつれて、産油国全体にかなりの動乱が拡がる可能性は高いわけです。

藤原 ペルシャ湾(アラビア湾)の入り口にホルムズ海峡というのがありますね。行ってみると分かる通り、あそこはサンゴ礁がいっぱいあるうえに、海岸から近いので大砲でタンカー沈めるぐらいは簡単にできる。で、あそこを制覇した国は、中東の政治を支配できるってわけで、イランはホーバークラフト艦隊を作ったんですよ。それから、6年前に、あの海域にあるトム島とか、いろんな島を強制占領した。連中は威嚇偵察だなんていってるけど、実質は占領ですよ。
 一方、サウジアラビアは、あそこを押さえられて、万一、国内のオペレーションが混乱した場合には、それに乗じて内部にいる外国人連中が騒ぐ。その危険を防ぐために、今、三つのプロジェクトを作っています。一つはアラビア半島を紅海に横断するパイプライン、もう一つは南イエメンに向けてのパイプライン、それにオーマンヘ向けてインド洋へ直接出るハイプライン。同じようなことはイランでも考えられていて、ソビエト経由でヨーロッバヘ出そうとしている。ソ連はイランにとっては大嫌いな仮想敵国だけど、そういってはいられないわけですよ。

鹿島 すでに天然ガスについては、それができていますね。

藤原 それより何倍もスケールのでかいプロジェクトです。余談ですけど、我々日本人は、石油を武器にした国際政治ではOPEC(石油輸出国機構)諸国をナンバーワンだと思っているけど、これは誤解で、じつはソ連ですよ。だいいち東欧諸国をサテライト化したのは石油の力だし、いまや西ヨーロッ.ハに対しても、いわゆる友好バイプラインをフランスやイタリア、西ドイツに向けて敷いている。軍隊を使わなくても、パイプのバルブの締め具合で西ヨーロッパをコントロールしようという戦略なんです。それに対してNATO諸国は、これは大変だというわけで、北海油田開発に最大限の努力をしているんです。ですから、あれは、石油を軸にした世界戦争で、ソ違勢と西欧勢がぶつかり合っているヨーロッーパ戦線のシンボルなんですよ。

鹿島 なるほど、そういった見方というのは、日本にはあまりありませんな。


「石油資源枯渇」が確実にくる

藤原 80年代危機の第三の要因というのは、日本自身の問題です。日本は経済大国と威張っているけど、それはイリュージョン(幻想)にすぎない。日本はそんな実力を持ってやしませんよ。石油開発もない、代替エネルギーもないんですからね。鉄鋼産業は世界一とかなんとかいってるけど、日本の鉄鋼なんて、スーバーマーケットでいちばん安いインスタントラーメンみたいなもんだ。石油開発なんかじゃ、あんな粗悪品は絶対使わない。あれはカン詰めの罐とか、自動車とか、タンカーとか、要するに張り合わせ細工に使っているだけで、非常に高級なスペックを要求されるものには、日本の鉄は使わないんです。ドイツとかスウェーデンから買いますよ。だから、目方買いの安物なら、コストの安い韓国のものを買うということになり、いずれ日本の鉄鋼業は追い上げられるでしょう。それぐらい日本の経済というのは弱いんです。

鹿島 >堺屋さんは危険の要因が二つあるとおっしゃいましたが、産油国の動乱の可能性と、もう一つは何ですか。

堺屋 これは『油断』の場合ほど劇的ではないんですが、確実にやってくる問題として、石油資源の枯渇ですね。現在、自由世界全体で発見されている石油資源量、いわゆる可採埋蔵量は5600億バレル。それに対して年間生産量は160億バレルぐらいあります。従ってRP系数(可採年数)はだいたい35ぐらいで、発見量を需要量が上回っているから、だんだん可採埋蔵量は減りつつある。しかも、消費量は石油ショック後の不況でちょっと減ったけれども、また回復してきて、今後、年3.5パーセントぐらいの割合で上昇していくとみられている。その結果、RP係数が15を割ると資源生産は増えないということが、経験則的にいわれてるんです。
 アメリカがいい例で、ニクソン政権の時に国産石油の大増産政策をやったけど、増えるどころか、むしろ減ってしまった。なぜかというと、アメリカ国内埋蔵量と生産量の関係が、今、RP係数8に落ちちゃってる。このまま放っとくと、あと8年ぐらいしか資源がない。そうなるとやはり伸びないんですね。

藤原 石油の需給関係におけるアメリカの消費量の問題は、これから非常に大きなウエートを占めてきますよ。アメリカの原油輸入量は、今、一日500万バレルだけど、そのほか同じ量のものを、軽油とか灯油とかジェット燃料といった製品の形で、ベネズエラやトリニダードから輸入している。原油輸入だけでみると日本とほぼ同量のようだけど、実際には日本の倍の輸入量なんですよ。アメリカの国内生産量は一日1000万バレルで消費量は2000万バレル。要するに、アメリカという国は全世界の十七分の一の人口がありながら全世界のエネルギーの三分の一を使っていることになる。そこに問題がある。節約によって、これをなんとかできないかというのが、カ―ター政権のエネルギー政策の眼目です。
 しかし、カーターのいうように40パーセント節約なんてできっこない。せいぜい10パーセントぐらいじゃないか。ということは、今後ますます、アメリカは石油を輸入しなきゃならなくなり、今のところ短期的にだぶついているようにみえる石油は、1980年代の初めになると非常にタイトになってくる。その奪い合いの中で石油コストは跳ね上がっていくから、日本は耐えられなくなる。これが第四のファクターだと思うわけです。

堺屋 もう一つ、非常に重大なのは金の問題です。金の現在のRP係数は世界全体で17ですので、ニクソン・ショックの時に1オンス35ドルだった金が、いま161ドル。値段は5倍近くになっているけれど、生産はぜんぜん増えていません。
 そういう例からみても、石油の生産量はRP係数が15前後になると減るとみなければならない。それがいつかというと、発見量と需要の伸びからみて1980年代の後半ということになるけど、それよりもっと早くなるのではないか、というのが現在の推測です。
 なぜ早まるかというと、これは日本で指摘する人は少ないのですが、ドルと金の関係が切れているのが大きな要因です。これまで、資源国にとってドルが価値があったのは、いざとなれば金に換えることができたからでした。
 ナウルなんて国は典型的で、どんどん資源を掘ってドルを蓄え、金利を取り、好きな時に換えることができた。ところがニクソン・ショック以来、金とドルの関係は消えて、現在、人類は歴史始まって以来、初めていかなる物質の裏付けもない通貨を持ってるわけです。

藤原 いまや金本位制に取って代わって、石油本位制だという発想法になってる。

堺屋 そうなると、自分の国の資源が枯渇する危険を冒して、無限に減価していくドルを蓄えることが得策でないことは、誰がみても明らかですからね。まず資源枯渇の危険が迫った国から減産競争が始まることは目にみえている。それが1980年代前半にくると予測されるわけですよ。


なだれ現象で減産競争に…

鹿島 サウジアラビアの場合は比較的石油資源が豊富で、そう急激な枯渇の危険はないといわれていますけど…。

堺屋 ところが、藤原さんが指摘されたように、サウジアラビアとイランの関係が、非常に重要な問題になってくる。サウジアラビアがみんなと一緒に組んで、いっせいに減産すれば石油価格は上がるわけです。そこで減産を主張する国と、増産を主張する国との対立が、しだいに深刻化して、重大な問題になってきます。

鹿島 要するに、世界の石油資源というのは確実に有限であって、いずれ悪化する。だから、産油国は、いつの日か確実に資源保護政策を採るであろう。たとえば、クウェートなんか当初、日産300万バレルを掘っていたが、73年の十月戦争後には、200万バレルに落とした。埋蔵量が公表数字より少ないと思いだしたからです。このように各国が自分の石油資源がいくらあるか疑心暗鬼になりだした時に、なだれ現象で減産競争が起こるだろう。その時期が80年代前半と…。

堺屋 そこなんですよ。それに加えて、産油国がいま一生懸命に取り組んでいる国内の工業化開発の行き詰まりが出てくるのが、だいたい80年ごろからとみられている。そうなると、経済水準を維持するためには、石油資源を長持ちさせにゃいかんということになる。さらに、それまで工業化に投資していたお金はいらなくなるから、石油増産でドルを稼ぐ必要もなくなる。減産要因が二重、三重に増幅されてくるんですよ。減産競争が始まると、ますます値段が上がっていく。値段が上がると、産油国の収入は減らないから、もっと減産してもよいということになる。その悪循環が、80年代の初めから起こる可能性がありますね。

藤原 それにもう一つ、80年代には、産油国がいまのような産油国ではあり得ないという状況が出てきます。いままでは石油を掘ると自噴してきた。いわゆる一次回収だったんです。サウジアラビアはまだいいんですが、イラン辺りは二次回収しなきゃならない。つまり、水をぶち込んだり、ガスをぶち込んだりして、原油を押し上げてくるわけで、一つのエネルギーを回収するのに0.3「あるいは0.4ぐらいのエネルギーを注ぎ込んでいるわけです。一次回収だと0.1とか、O.05ぐらいですみますけれどね。さらにアメリカ辺りになると、いまや問題になっているのは、三次回収なんです。これは、薬品や灯油をぶち込んで原油を押し上げなきゃならないし、非常に難しいテクノロジーです。そうなってくると、エネルギーの絶対量を引き上げるために、我々はものすごいエネルギーを投入しなければならないというジレンマに立たされるわけですよ。

鹿島 80年代前半に減産競争が始まるとして、その時、日本に回ってくる石油の量というのは、どのくらいになるものでしょうかね。

堺屋 ジェームス・エイキンスという前サウジアラビア駐在のアメリカ大使の話では80年代のかなり早い時期に、石油は割当制になるだろうっていってました。国際協定みたいなものができて、日本は何バレル、アメリカは何バレルというようにです。人類が全世界的割当制度をやった例としては、オットセイとクジラぐらいのものですよ(実い)。そうなると、結局、エネルギーの供給量の限界が、経済規模の限界になってきますね。だから、経済成長を止めねばならなくなる可能性があるんじゃないですか。

藤原 その可能性は非常に強いでしょう。

堺屋 従って、代替工ネルギーがどこまで活用できるかということが、経済の基本問題になるんじゃないですか。その点では、日本はかなり不利な条件を持っています。

鹿島 石油に代わって、天然ガスがかなり開発されて、それがつなぎの助け役になるのではないかという希望的観測もありますけどね。

藤原 すでにアメリカでは1960年代において、天然ガスが大きくクローズアップされていますよ。公害問題との絡みで、非常にクリーンであるということで。おそらく天然ガスが主役になった次の段階に、石炭のガス化、液化がリリーフ役として登場し、その次に水素ガスが出て、その後、21世紀になって初めて、いわゆる高速増殖炉などの原子力が主役になるだろうと思う。

堺屋いや、天然ガスはアメリカの場合と日本の場合とでは、かなり違いがあると思う。第一の問題は、天然ガスはいまのベースで増産していくと、1990年代前半までしか増産できないといわれている。それほど豊富な資源ではないんです。石油に比べて10年ぐらいしか長持ちしないわけです。
 第二に、天然ガスが非常に悲劇的なのは、備蓄がきわめて困難なことです。マイナス160度以下に冷却しなければ液化しないんです。備蓄費用は大変です。アメリカのように自分の国で産出する国はいいが、日本のように産出量ゼロと考えていいような国で、たとえば、都市ガスにおける天然ガスの比率を3割以上にするとなさい。中東で何か起こったら大変なことになる。つねに「油断」の危険がつきまとうんです。ですから、天然ガスは量的にはいまより増えていくと思うけれど、率としては限界があると思います。


世界中で石炭が見直される

鹿島 すると、天然ガスに代わるリリーフ役というのは?

堺屋 いま世界中の国がいちばん期待しているのは石炭なんです。まず第一に生だきで発電に使う。ところが、エネルギー消費量の中で電気の占める割合は世界的には4割、日本では3割しかない。後の7割は、流体エネルギー源の使用を前提にしたシステムになっている。これを全部、固体エネルギー用に戻すことは大変なので、やはり液化、ガス化しなければならない。どころが、コストが非常にかかる。石油換算で1バレル=20ドルぐらいになるんです。

藤原 僕はもっとかかると思う。北海石油の3倍ぐらいになるんじゃないかな。

堺屋 北海石油は場所によってずいぶん違う。安いので6ドル、高いので12ドルでしょう。

鹿島 そうすると、1980年代の初めには、石油価格はどのくらいになっていますか。

堺屋 難しい問題ですが、すべての商品価格は、最後の一単位の供給者のコストで決まるわけですからね。ガワール油田やブルガン油田のコストは12ドルだといわれているけれども、石油の場合の最後の一単位の供給者というと、北海油田のB2地区で、現在すでに12ドルになっている。今後、さらに氷の下とか深い海底を掘らなきゃいかんということになると、ますます高くなる。そこから考えると、一般物価に比べて数計ずつ早く上昇していくという感じです。

藤原 メジャーたちは、1982、1983年には、現在の価格の3倍になると予想している。

鹿島 そうすると、バレル当たり36ドルですか。

藤原 それはメジャーの予想で、5倍ぐらいになると思う。

堺屋 僕は、ほかの物価が現在の水準だとして20ドル。ほかの物価が上がれば、とうぜん、その比率で石油も上がる。

鹿島 とすると、30ドルぐらいになりますかo

堺屋 じゃないでしょうか。

鹿島 いずれにしろ、お二人の予測では、大変な危機が襲来するわけですが、そうすると日本の社会は、いったい、どんなことになるでしょうか。

藤原 非常に単純なパターンでいえば、社会不安が起こるのは間違いないし、そうした不穏な情勢の中で、ある時点で大火事とか地震などの突発事を契機に、自衛隊がクーデターを起こして、現憲法を停止する。そうして、非常に全体主義的な政治が行われるんじゃないか。日本の戦後史の流れをみていくと、そういうふうな非常事態が起こる方向へ流れていくと理解しているんですがね。

堺屋 とんでもない。あなたのいまの話は面白すぎて、ちょっとついていけないな(笑い)。

(以下次号)


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