激突討論第2弾
『週刊サンケイ』 1977年11月17日号




1980年・日本の破局
1億滅亡≠ゥら逃れる手はあるか

堺屋太一
藤原肇



1980年に未曽有の石油パニック≠ェ日本を襲い、その結果、日本は崩壊する――とのショッキングな予測で大反響を呼ぶ激突討論。はたして、この日本を救うすべはあるのか。助かるためにはどうすればいいのか。エキスパート2人の対決はいよいよ核心へ。



出席者のプロフィル

  ■堺屋太一(さかいやたいち)
作家。本名を池口小太郎といい、本職は通産省工業技術院のお役人である。1960年、東大卒業後、通産省へ入省。3年後、28歳にして大阪万国博のアイデアを提出、その後、沖縄海洋博のプロジェクトをスタートさせるなど、ニュー・エリート≠ニして脚光を浴びた。75年には、石油危機を素材にした小説『油断』を発表、一大センセーショナルを巻き起こし、作家としての地位も確立。『団塊の世代』『破断界』など話題作を次々に送り出している異色官僚≠ナある。42歳。

■藤原肇(ふじわらはじめ)
カナダ在住の石油地質学者。1963年、埼玉大卒業後・フランスに留学。構造地質学、石油地質学を専攻し、理学博士となる。その後、石油・資源開発のコンサルタントとして、アフリカ、中東、欧州で活躍。71年ごろ、2年後の日本の石油危機を予言、的中させた。現在は『ベトロフィナ・カナダ社』に勤務、このほど5年ぶりに帰国した。外から見た日本観は定評がある。著者に『石油危機と日本の運命』(サイマル出版会)、『日本丸は沈没する』(時事通信社)など。39歳。

■鹿島茂男(かしましげお)
『ビジネスジャパン』(日本工業新聞社発行の英文月刊誌)編集長。第四次中東戦争後の1973年12月、サンケイ新聞ベイルート特派員として赴任。76年8月に帰国するまで、2年7か月中東に滞在。現地の情勢をつぶさに目の当たりにした。レバノン内戦、最後の邦人引き揚げ組の一人である。47歳。




日本の政治経済を支配する?韓国

鹿島 1980年代前半に予測される大破局について、藤原さんは前回、「社会不安から自衛隊のクーデターが起こり、憲法を停止して、全体主義的な政治を行う」という非常にドラスチックな事態もあり得ると述べられた。それに対して堺屋さんは、「とんでもない、あまりに面白すぎる話だ」とおっしゃつた(笑い)わけですが、そこのところを、もう少し詳しく討論することにしましょう。

藤原 クーデターというのは極端な場合で、現状からみるともっとソフトな形でのファシスト革命が起こると思いますね。カギを握っているのは日韓関係です。韓国というのは、これまで過去十年間、国内経済体制をオープンな状態において、外国からいろんな資本を呼び入れてネゴ(交渉)をやるなど、国際感覚は日本よりはるかにとぎすまされたものを持っている。これは、韓国の政財界人に会って話してみると分かります。
 そういう韓国だから、いざとなった揚合は、日本が向こうに投下している資本はいただきであるというふうな、いわゆるハイジャックの理論が生まれてくるんじゃないか。つまり、日本の投資を人質にして、逆に日本の政治、経済を支配していくという発想法が、功利主義のうえに立った力の政治という形で、国際的な政治の舞台ではつねに動いているわけです。

鹿島 投資ジャックが起こり得ると…。

藤原 国際政治というものは、非常に厳しいもので、たとえば経済力も豊かで、人口も多い大きな国が、小さい国を経済的に支配しているようにみえるパターンが、非常に独裁的な指導者を持った小さな国によって、あっという問に突き崩される例が、世界史の中にいくらでもあるわけですからね。

鹿島 日本も、その道をたどるというわけですか。

藤原 日本の歴史をみても、日露戦争、日清戦争がそれですよ。あの時は、小国日本が挙国一致で小回りを利かして動き回ることで、内部的に腐敗し、士気の衰えた大国を制圧した。今の日韓関係の中では、日本はかつての清国・ロシアの立場なんだ。

鹿島 その日韓関係と、日本エキスパート2人の対決にも独裁的指導者が出る可能性が強いということとは、どうつながるわけですか。

藤原 たとえば、日韓枢軸の中核をなしている人たちは、岸信介氏を筆頭に、まさに戦前の革新官僚の人たちで、満州国を作った人たちでしょう。現在、韓国に作られている状態は、まさに満州国の狭小化で・日本の進出地という形になっている。戦前の歴史をみると、日本は満州を支配していたつもりが、いつの間にか満州に振り回されて、つまり、イヌがしっぽを振るのではなく、しっぽにイヌが振り回される形で、大日本帝国は滅亡していったわけです。それと同じように、韓国が日本を振り回す時期がきているんだ、非常に危機的な状況だ、と僕は認識するわけです。

鹿島 その前提には、80年代前半の石油大パニックがあるわけですね。

藤原 今はマイホーム購入などで、個人レベルでの借金も大きいですからね。ほとんど全国民が借金を抱え込んでいる。そこへ大学卒業者の就職難だけじゃなく、就職している連中も追い出される、つまり、日本独特の終身雇用制が崩壊するという事態になると、銀行の取り付けなんかも当然起こるし、それをかつての山陽特殊鋼倒産の時のような形で救済することは政府としても不可能なことですよ。
 そうなると、その膨大な失業者をどうするか。たとえぼ『防人の会』とか『愛国日本の会』みたいな組織ができて、その会員になった人は優先的に就職を世話するといった形でオルガナイズしていって、非常に翼賛的な形で日本は全体主義への方向を進んでいく。現在の偉い人たちは、それを考えていると思いますよ。

堺屋 やっぱり面白すぎる話ですな。僕にはついていけない(笑い)。


鹿児島から米大陸へ核爆弾が

藤原いや、アメリカの日本に対する基本認識など、まさにそれですよ。そういう危倶を非常に抱いている。具体的な例が石油の問題にも出てきている。たとえば、アラスカ北端のプルドー・ベイで石油が発見され、全長1280キロのトランス・アラスカ・ハイプラインを通じて南へきていますね。これを日本へ持ってきて、代わりに日本がサウジアラビアで買った石油をアメリカに持っていくというようにスワップ(交換)をすれば、アメリカの貿易収支の赤字問題にもブラスになるし、輪送コストもバレル当たり1ドルか1.5ドル節約できるから、日米双方に非常にメリットがある。
 ところが、これにアメリ力の議会が反対し、カーター大統領も一緒になって反対した。その背景に何があったか。じつは、そのことによって日本に石油輸入会社ができ、完全に日韓枢軸の方へ金が流れてしまう。つまり、いろんな訳の分かんない連中が動いて、たとえば、朴政権によるワシントンの買収みたいなバターンソが、日韓連携で行われたら始末に困る、という考えがアメリカ側にあったからなんですよ。

鹿島 核燃料問題での日米交渉に似た背景ともいえますか。

藤原 その通りです。ブルトニウムさえあれば、いまや簡単に水爆の作れる時代ですからね。カーターは、人種差別の南アフリカ連邦や、常識人とは思えないウガンダのアミン大統領の手にプルトニゥムが入っては困るから、日本にもプルトニウムを自由にさせないんだといっているけれども、じつは南アフリカやアミンのことだけをいっているんじゃない。日本や韓国をも含んでいるんです。国際政治の次元では、それぐらいの判断力を働かせるべきなんだ。なぜかというと、日本の閣僚の中には核武装をしたいという考えの入がいる。しかも、その人たちがオフレコで、鹿児島で開発中のロケットを使えば、我々はニューヨークにだって、ぶち込めるんだということをしゃべっている。アメリカは、そういうことを知っているんです。

鹿島 堺屋さんは80年代の破局でどういう社会現象、政治現象が出てくると思いますか。

堺屋い ちばん危機的な現象は、理性と感性の乖離だろうと思いますね。エネルギーの問題でも、人口構造の問題でも、いちばん重大な問題は、これに対する対策が非常に取りにくくなっていることだと思う。藤原さんの話とはまったく逆で、政治の力が弱すぎることですよ。

藤原 政治の力が弱いということと、政治の指導性が弱いということとは、別の問題です。日本は官僚を中心にした完全に統制的な方向で締めつけが行われている。その意味で政治の力は非常に強い。しかし、国際政・治の次元では、政治的指導性もなければ浮き草稼業をやっているんです。

堺屋 いや、官僚とか、そういう次元の問題じゃなしに、非常に信じ難い話で、もっといえば、話を面白くするために、無理なこじつけがありますね。


余剰外貨で米の石油会社買収

鹿島 では、その問題はおいておくとして、予測される80年代危機を避けるためには、何をなすべきかですが、当面の外貨問題、円高の問題がありますね。これは将来の石油危機からみた場合、どう対処したらいいのか。

堺屋 前回述べたように、石油危機には、石油輸入がとつぜん、大幅に減少する「油断」と、世界の石油資源の枯渇の間題があるわけですが、いずれの場合でも、現在の手持ち外貨を減らさずにおけば助かるというものではないんです。だから、現状においては、やっぱり国際的な均街を考えて、有効な外貨滅らしをすべきでしょうね。

藤原いや、外貨減らしじゃなくて、せっかくある外貨をいかに有効に運用すべきかが、問題にならなくちゃいけない。たとえば、その外貨でアメリカの石油会社をそっくり買ってしまうとかね。外貨減らしというと、じゃ、外国から何か輸入しようなんて発想は、あまりに直接的なアプローチというか、じつに短絡的で、まさに福田的、大蔵省主計局長レベルの考え方だ。
 この外貨を使って、予測される国難を避けるために投資しておくという発想に立つなら、外貨を日銀が一手に握って管理するという現在のパターンを改めるべきです。あれこそまさに、硬直した官僚による経済支配の典型ですよ。日本にはフリー・エンターブライズ・システムというのはまったくない。すべて日銀や大蔵省や通産省が指導、管理している感じがする。

鹿島 堺屋さん、外貨滅らしについて、もっと有効なやり方が考えられますか。

堺屋 たしかに、いちばんいいのは、現在の外貨を安全性の向上に使うことですね。日本は現在、あらゆる意味で保険料を払っていない国≠ニいわれているわけですね。ヨーロッパやアメリカとの間で、貿易摩擦が起こる最大の理由もそこにあります。というのは、日本は安全保障に費用をかけないで、その分だけ安売りしてくる。それに対抗しようとすると、ほかの国も安全保障を放棄しなければならなくなる。だから、日本は「危険の輸出国」だと呼ばれているんです。

藤原 堺屋さんのいう安全保障とは何ですか。

堺屋 すぐ国防費と短絡されてもらっちゃ困る。国防費が安全保障全体に占める比率は、特殊な国を除いては3割ぐらいのものでしてね。もっと大きな問題は、いわゆるナショナル・セキュリティー、経済的安全保障ということ。

藤原 それはその通り。

堺屋 経済的安全保障として、あなたのいうアメリカの石油会社を買うことも一方法だけど、現実には非常に難しい。そこで備蓄の問題になるけれど、たとえば、30日分の石油を備蓄するとすれば、約20億ドルの外貨がすぐ要るわけですね。ところが、現在の日本では、これができない。最大の難点は、備蓄にはタンクが必要だけど、このタンク建設に対して反対運動がある。将来の石油危機に備えての原子力発電所に対しても、反対運動が起こる。ここがいちばんの問題だろうと思う。日本では関係住民の90パーセントが賛成してもダメ、たった5パーセントの反対で阻止できるんですから。

藤原 ようするに通産省的発想というのは、備蓄といえば、タンクを造って、その中に石油を入れることしか考えないんだよな。最も有効な備蓄は、日本周辺の石油資源を開発して、必要な石油量の2、3割は手のうちに確保することなんだ。僕はそう発想しますけどね。

堺屋 それこそいちぱん単純な発想で、通産省でも日本近海の石油開発は最重点政策の一つとして、現に取り組んでいますよ。けど、日本近海に石油がそれほど大量にあるかというんです、問題は。

藤原 いや、僕をしていわしむれば、あるんです。

堺屋 どこにあります?

藤原 2割ぐちいなら、日本周辺にいくらでもある。

堺屋 そうかな。日本の総需要の2割というと、年間6000万キロリットル、今の中国の総生産以上ですからね。簡単に出る量ではないですよ。


急げ!日本近海の油田開発

藤原 ようするに、石油っていうのは、誰かが見つけてしまうと、バカの後知恵でもって、みんな殺到するんです。たとえば、第二次大戦の前、日本の軍部は満州を駆け回っていたけど、あの下に石油の海があるなんて、誰も考えてもみなかった。それで、オランダ人がインドネシアで見つけたやつを狙って南進したわけですね。当時の日本の地質学の認識では、中国大陸は陸成層だから石油は出ないと勝手に決めていたんです。日本の大陸棚もそれと同じで、現在、日本の石油開発をやっている人たちの頭では、どこを掘ったらいいか分からないだろうけれどね。しかし、メジャーやヨーロッパ系の会社は、あそこを掘ればたくさんあるはずだと思っているし、事実、彼らは入りたがっているけど、外国資本だからというので、日本の鎖国主義にストップをかけられている。そういう状況があるわけですよ。

堺屋 それはかなり事実認識を誤っている。日本の大陸棚の石油採掘権の申請は外資系企業も多いし、現に国際的な問題のないとこは探査を許司しているんですよ。

鹿島 鎖国主義かどうかはともかく、日本政府が本格的に自主開発の努力をすれば、日本海から石油が出る可能性があるかどうか、その点についてはどうなんですか。

堺屋 何をもって十分な努力というのか、それは主観の問題ですが、日本近海の開発を最重点政策として、石油開発公団でも取り上げているのは事実ですね。大なり、小なり、石油はあるとは思いますけどね。ただ、現在のところ、シェルとかエクソンとかのメジャーもあちこちほじくり返しているけど、経済ベースに合うものが大量に出ているわけではない。だから、膨大な開発費用を政府が税金で賄っていいかどうか、という議論になりますね。

藤原 別に税金で賄う必要はないですよ。世界の石油資本は自己資金でもって、経済べースでもってやるわけで、その彼らが日本近海は有望であるとみているわけでしょう、

堺屋 それは政府の得ている精密なデータからみて、まったく事実に反しています。

鹿島 その開発申請というのは、外国系の企業からのものが非常に多い。とすると、メジャ―は掘ろうと思えば掘れる状態にあると思うんですね。じゃ、なぜやらないのか…。

堺屋 いや、現にずいぶんやってますよ。今でも海底調査船も来てますしね。ただし、中国との大陸棚協定はまだできていませんので、そういう国際問題のある地域は別ですが、それ以外では日本企業も外資系もやっています。ところが、難問が一つあるのは、海底探査には漁民の反対が非常に強いことです。イギリスの北海油田との違いは、この漁民問題ですね。

藤原 石油の井戸というのは、3、4本掘ってやめたからダメなんじゃなくて、最初の石油を発見するまでに50十本や100本の空井戸を掘るわけです。だから、10本掘ってやめているからといって、けっして石油がないというわけじゃなくて、より有効な、よりいい条件がくるのを待っているわけですよ。

堺屋 よりいい条件というのは、やはりコスト条件がかなりの比重を占めるわけですわね。

藤原 もちろんそうですが、日本の場合は政治的な条件がかなり入ってくると思う。


経済採算に合わない日本油田

堺屋 その政治的条件が何を意味するのか、よく分かんないな。ようするに、現状では日本近海で経済採算に合う油田が直ちに開発できて、日本の需要の何割というほど、大量の石油が生産できる状態でないことは確かですけれどね。

鹿島 つまり、メジャーも採算のとれる自信がないからやらない、というわけですね。

堺屋 それを、日本政府が石油開発を妨害しているというのは、まったくの誤解です。

藤原 そりゃ、日本でメジャーが石油を掘るのは、アフリカでやるよりコストは掛かりますよ。日本には地場産業として石油開発に使えるものは何一つとしてない。それこそ人的資源から何から、全部、向こうから持ってこなきゃならないんだから。日本は、その点では後進国です。

堺屋 それはある程度本当です。今、石油開発公団でも技術者養成に大いに努力しているけれど、なにしろ米英に比べて日が浅く、経験が少ないですからね。そういうことも含めて、日本近海の油田は経済採算に乗る現状にはないということです。

藤原 メジャーはほかで新しい油田が見つかれば、無理に日本で探す必要はない。有望だとしても、今すぐ手をつけない自分本位の面がある。しかし、メジャーとしてはやりにくいけど、日本自身が月分の裏庭でやるんなら、問題は変わってきます。

堺屋 その点は経済選択の間題になる。限られた国家財政の中で、何に、どれだけ配分するかということです。

鹿島 足元に火がつきかけているんだから、これまでの経済採算にとらわれず、本当に一生懸命やらなきゃいけないんだという認識が、まだ政府にも民間にもないんじゃないかという気がするんですけどね。

堺屋 ようするに、チョイスの問題ですよ。たとえば、老人福祇や米価引き上げや住宅建設をとるか、それともエネルギー問題を優先すべきかということになると、マスコミでも老人福祉や住宅建設をとるべしという声が圧倒的でしょう。そこのところですよ。私たちのようなエネルギー関係の仕事をしている者からみると、いかにもいらだたしい話ですけれど、たとえば、主婦の会合なんかでエネルギー問題の話をして、石油開発のためにこれこれの投資をしているとか、新エネルギー技術の開発でサンシャイン計画に今年度48億円投資しているとかいうと、たちまち、「もったいない、どうして老人福祉に回さないんですか。あなたには愛国心がないんですか」と、こうくるわけ(笑い)。日本においては、エネルギー問題に対する認識が、まだかなり低いんです。

藤原 今までの日本の政治のやり方は、まさにそういうふうに国民をスポイルする形でしかやられていなかったわけだ。ようするに、農民が何かいえば米価を引き上げる。産業界がちょっと危ないというと、補助金を与えてやる。まさに、補助金のばらまき合戦をやっていただけだから、日本が滅亡するかどうかという問題が起こっても、相変わらずその発想でしか政治をみなくなっている。それを、我々は改めなきゃいかん時にきているんです。石油備蓄の問題は国家の安全保障の問題であって、老人福祉なんかとは次元が違うんですよ。

堺屋 うん、違うんだ。

藤原 しかも、備蓄が国家の安全保障だとするなら、石油開発は備蓄よりさらに優先的な政治課題だと思う。そこに政治の指導性を発揮すべきなんだ。まさに政治不在なんですよ。


自衛隊をソックリ石油開発に

堺屋 今の藤原さんのお話は、大変、官僚的発想なんだけどね(笑い)。我々は、そこまで官僚的になれない弱さがありましてね。やっぱり国民が期待していることには、なるべく応えなきゃならないし、こちらから命題を与えることには限界があると思う。もちろん、国民にエネルギー問題の深刻さについて情報を与えていき、それでもなお福祉を選びますかと選択を迫る必要はあるんだけど。

藤原 あなたは福祉ばっかりいってるけど、国防予算とか経済界に対する補助金、財政投融資の問題もあるじゃないですか。福祉か石油開発か、なんていわれるのは、ちょっと困る。僕にいわせれば、自衛隊をそのまま石油開発にいただけばいいんです。戦闘機やロケットはいらないけれども、彼らの所有する飛行機とか船とかトラック、戦車、それに若い人材、これをすっぽり投入するんですよ。それぐらいの構想を僕は持っています。軍隊と石油開発事業というのは、形態として非常によく似ていますから、ちょっと手直しすれば使えるんですよ。それに、軍隊なんて最もエネルギーを浪費している部分なんだか ら。

鹿島 三個師団ばかり、石油開発に振り向けますか。

藤原 そういう根元的な議論が、日本の政治の次元では行われない。福祉ですか、石油ですかと、非常に単純な議論しか出てこない。

堺屋 これはご存じだと思うけど、日本の軍事費はGNPの0.9パーセントで、世界で最低の水準ですよ。自衛隊のエネルギー消費量は全消費の0.2パーセントにしかなりません。あなたはアメリカのように軍事費の強大な国をみているから、日本の現状には疎いかもしれませんがね。全世界が、日本程度に軍備を減らしてくれれば、エネルギー問題の観点からも有り難いと思いますけれどね。

鹿島 今、日本は80年春までに90日分の石油備蓄をやろうとしているけれど、この目標は達成可能ですか。

堺屋 まあ、可能でしょうね。

鹿島 可能だとして、82、83年の危機に対処できる量ですか、それは。

堺屋 望ましい量としては、120日分は必要です。

藤原あと30日分の備蓄をなんていわなくても、石油開発に国防予算なりを回せがすむ可能性があるじゃないですか。

堺屋 日本近海にも有望な油田がある可能性は十分あるけれども、その開発だけやれば備蓄をやらないでもよいというほど、ことはうまくいかないですよ。日本政府も日本の石油会社も知らないデータがあるなら別ですがね。そんなことはあり得ない。かりに日本近海を探査した誰かが、資料を全部作り替えて報告しているとしても、日本側の調査資料もあるので、整合性がとれないから、すぐ分かります。

藤原 だって、我々、石油開発を全世界でやっている。僕の担当地区は、世界中の北緯60度以北だけれども、そうした目からみて、日本の周辺に石油がないんじゃなくて、ただ日本人にソフトウエアがなく、出すことができないでいるだけですよ。


野垂れ死に#F識する時期に

堺屋 やっぱり痛感するのは情報の間題ですね藤原先生ともあろう人でさえ、政府の政策や、あるいは政府が考え、議論していることについて、これほど情報不足に陥っていらっしゃるとは、やっぱり我々のPR不足なんだな。

藤原 通産省が考えている120日分備蓄というのも、結局はタンク建設やタンカー建造 で、鉄鋼業堺や造船業界の不況救済の発想が強いんじゃないんですかね。今までの日本の政治をみていると、どうもそういう気がしてしようがない。

堺屋 そういう勝手な推測はきわめて迷惑だな。

藤原 迷惑であろうがなかろうが、日本の産業界というのはオンブにダッコで、通産省と一緒になってやってきたではないですか。それが、ここへきて突然消えるとは思えない。

堺屋 造船や鉄鋼が不況になってから、備蓄をいいだしたんじゃないですよ。1970年ごろから始まってる話で、当時はむしろ鉄不足だし、造船は輸出で好景気だったんです。

藤原 ようするに、今まで日本の政治というのは、まともなことをやっていなかった。そういう状況でも、まあ、今日まではこれたけれど、これからはすぐ野垂れ死にしなきゃならない。そういう認識を国民自身もだけど、政治家、それをサポートする官僚、財界人がはっきり認識すべき時期だと思う。

堺屋 それと同時に、政治というのは政治家や官僚や財界人など、一部の人に責任を負わせてすむ問題だという考え方も改めるべきです。全国民的に、認識を拡げていかなきゃならないことですよ。そういう意味で、備蓄問題を一部の業界のためだというような考え方は、しない方がいいと思う。

鹿島 意見は対立したままですが、この辺で。お忙しいところを有り難ううございました。


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