『ニューリーダー』 2004.09月号

《徹底分析》



「プーチン・ロシア」の新世界戦略(下)


木村汎(拓殖大学海外事情研究所教授)
VS
藤原肇(フリーランス・ジャーナリスト 在米)



「石油の世紀」から「天然ガス主役」の新たな時代へ
新覇権抗争と文明相克の中で日本が進むべき道



ロシアが世界一の資源大国になる

藤原 最近、「米国の中東石油戦略」とか「カスピ海周辺の石油支配」という題で、メディアが賑やかに石油を巡る国際政治を論じています。二〇世紀が「石油の世紀」と呼ばれたように、国際政治は石油権益の争奪を軸に展開してきたし、エネルギー源の石油は産業社会の生命力だったから、石油の支配と確保は、一国の死活を決めるカギであることは確かです。
 二〇世紀は技術集約型の産業社会として発展したので、石油はジェット燃料で空を支配しただけでなく、重油で海上交通を機能させる働きをしたし、ガソリンと灯油で地上の交通や産業を動かしたわけです。
木村 だから、日本が石油を禁輸されて真珠湾を奇襲したのは、南進してインドネシアの油田を支配する作戦の一部でした。また、戦後になって日本経済が飛躍的な成長を果たした原因は、安い石油を思う存分に活用できたためです。重工業の復活に続いて電子産業が育ったことも確かですが、反面、OPEC(石油輸出国機構)の石油作戦に振り回されました。
藤原 しかし、エネルギー源の主役として石油が君臨した時代は一九八○年代の半ばが頂点で、その後のエネルギーの主役は天然ガスになっている。だから二二世紀に水素ガスが主役になるまでの間は、世界一の埋蔵量を背景に天然ガスの輸出でも世界一のロシアに大きく注目する必要があるし、そのロシアの将来を展望する鍵は天然ガスにある。過去のエネルギーの王者としての石油の産出面から見ても、ロシアはサウジアラビアや米国を抜いて世界一の生産国だが、私は石油と天然ガスを合わせて炭化水素資源として扱い、単に石油だけで見るという偏見を回避してきました。
 現に、サウジの天然ガス生産はロシアの一割以下だし、米国は石油でも天然ガスでもロシアに引き離されている。そして、この炭化水素資源が旧ソ連やロシアの経済を支えているという事実――この視点が抜けているロシア論は中途半端です、
木村 改めて指摘されてみるとまったくその通りです、旧ソ連時代からロシアの石油生産量は世界一だったから、それを当たり前のように扱ってきたが、確かに二つの総合力が決め手になる。だが、天然ガスに関してあまり注意を払わなかったのは、天然ガスの価値が何十倍もに高まったのが、ここ三十年くらいの出来事だったからでしょう。
藤原 炭化水素の視点は文明史的な発想に基づいている。エネルギー問題を炭化水素をベースにして整理すれば、水素や炭素の他に硫黄などの不純物を含む木や草が、次第に炭素の比率を高めて木炭や石炭の利用になり、二〇世紀の後半までは石炭が主役の時代だった。だが、一九世紀の末に登場した石油が二〇世紀全般を支配し、二〇世紀の末からは石油に代わって天然ガスがエネルギーの主役になり、最終的には水素ガスが究極のエネルギーになる。
 炭化水素は炭素(C)と水素(H)の組み合わせであり、炭素の多い固体から液体状の油を経て水素の多い気体に移る。元素の組み合わせがエネルギーの相転換に関わっているのに、こういう大事なことにエコノミストは無関心なのは問題です。
木村 確かにその通りです。私はエコノミストではなく国際政治学者ですが、藤原さんの指摘のように、エネルギー問題を石油の生産量や販売高だけの数字で考えて、石油と天然ガスの組み合わせとしては扱わなかった。これは、言われてみれば「コロンブスの卵」と同じで、確かに両方の合計がエネルギーを示しています。
藤原 石油の生産量ではロシア、米国、サウジアラビアがトップ・スリーであり、続いてイラン、メキシコ、中国、ノルウェー、カナダの順になる。しかし面白いことに、炭化水素という視点で眺めると、四番目がカナダで後はイラン、メキシコと続いて、さらにノルウェー、英国の順になり、石油開発技術と工業化の進んだ国ほど天然ガスに傾きます。
木村 それにしても、ロシアの実力は大変なものだ。天然ガスが未来を読むうえでのカギになるという指摘は、今後を占ううえで興味深い示唆だと思います。


「国際石油政治」のわからぬ日本の悲劇

藤原 一九八〇年代の前半に米国もソ連も石油生産はピークを迎え、米国では天然ガスの生産までが峠を越してしまった。だが、ロシアの天然ガスの場合は未だ発展途上で、とくに西シベリアの天然ガス田は世界有数で埋蔵量も世界最大です。
木村 ロシアには最大級の天然ガス田がいくつもあるから、そのガスをパイプラインでヨーロッパの消費地まで運び、ドイツやフランスに売って現金収入にして、それに石油の売上げを加えた合計が経済を支えてきた。
 だから、今でもそのやり方で日本や中国に天然ガスを売る話を持ちかけて、それを外交カードに使っている。この外交の切り札は政治力として有効に働くから、日本は足元を見られて手玉に取られかねない。
藤原 日本には国際石油政治がわかる人間がいないから、役人や財界人が目先の利益で取引しようとするからダメなんです。
 話をソ連が崩壊する前の石油問題に戻すと、ソ連には西シベリアの大天然ガス田の他に、世界で最も古いカスピ海周辺のバクーを中心にした第一バクー、ウラルからボルガ川地帯に広がる第二バクーとともに、西シベリアのオビ河流域の第三バクーの三大油田地帯がある。第一バクーの中核であるカスピ海西岸のアプシェロン半島は、一〇〇年以上の生産と乱掘で老朽化が進んでいたが、カスピ海内部のオフシェアと東海岸には未だ有望な油田ポテンシャルがある。それに欧米の石油会社が目を着けて狙ってきたわけです。
木村 一九七四年にバクー油田の見学にアゼルパイジャンに行ったとき、石油を汲む櫓が林立していたのが非常に壮観で印象的でした。案内したロシア人も、これがソ連に生命力を与えているのだと言って、とても威張っていました。
藤原 その第一バクーとシベリアの第三バクーは三次回収の段階で、補修をきちんとしないで乱掘に明け暮れていたために、油田が水没状態になり生産が激減していた。しかも、一九八〇年代の半ばに石油価格が大暴落したので、ソ連の現金収人が激減して経済が麻痺したために、それが原因でソビエト体制は瓦解したのです。
木村 八〇年代後半のソ連経済の惨状はすさまじかった。その背景に石油価格の暴落があったのは確かですが、あれはアメリカが意図的に石油価格を下げ、経済的にソ連を締め上げた結果だったのでしょうか。
藤原 そんな発想がアメリカ人にあるとは思わないが、英国人なら共産主義体制を突き崩そうと狙って、それくらいの間接アプローチを考えるかもしれません。大体、油田は生き物で過剰生産すると簡単に老衰する。それは、エサを与えずに生乳を搾るのと同じで、カネが欲しいとメチャクチャに搾って増産すれば、生乳が水っぽくなるし乳牛は弱るだけです。そして、カネがないから補修も整備もできないために、虎の子の第一と第三のバクー油田の生産が激減したわけです。これは乳牛の体力が衰えて生乳が出ないのと同じ、そこにアメリカ人と英国人が目を着けたわけです。
木村 カスピ海周辺のモスレム諸国が独立したチャンスを狙い、アメリカと英国の石油会社がグレートゲームの舞台に使ったおかげで、第一バクーは石油利権の対象になった。しかも、それがチェチェン戦争にと繋がるだけでなく、米国のアフガン攻撃やイラク戦争に発展した。そのために、プーチン大統領にチャンスが生まれたわけです。現に、プーチン大統領の第一期の四年間を通じて実行した、彼の外交と内攻の実態を振り返ってみれば、最も重要だったのはエネルギー外交だったし、ヨーロッパ市場を舞台に点数を稼いでいる。
藤原 その通りです。プーチン大統領の第一期は非常にラッキーだった。米国が軍事行動への傾斜を強め過ぎた関係もあって、国際政治においてロシアに色目を使ったし、チェチェン問題がプーチンの頭痛の種だった他は、それほど深刻な問題はなかった。


プーチン政権とユダヤ系の暗闘

木村 プーチンやエリツィンが大統領になる以前の段階では、ロシア人にとって外交上の切り札は核兵器であり、ハードな兵器が国際政治の取引材料だった。ところが、二〇〇一年九月一一日以降は、アフガンやイラクの戦争のせいで、原油と天然ガスの価格が高騰した。最初は一バーレル当たり一八.五ドルで予算を組んでいたが、石油価格が一ドル上がる度に二〇〇〇億円の増収になる。だから、石油が三〇ドル、三五ドルと高騰してボロ儲けになり、最近ではクドリン財務大臣が、石油価格が二八ドルなら「ロシア経済は心配ない」と至って強気になっている。
藤原 タリバンを口実にアフガニスタンを攻撃したのは、トルクメニスタンの天然ガスをパキスタンまでパイプラインで運ぶ、ユノカル(カリフォルニア・ユニオン石油)を中心にしたセント・ガス計画を実現するためでした。米軍はタリバン政権を粉砕してアフガンを占領し、傀儡政権がアフガニスタンを支配する形になったが、現実には首都の周辺を支配しているだけに過ぎないので、パイプラインはできないとプーチンは読んでいる。だから、トルクメニスタンの天然ガスを「ガスプロム」に扱わせ、欧州各地にガスパイプライン輸送網で販売させようと考えており、宿敵の「ユコス」に徹底的な弾圧を加えている。
木村 話の筋道としてはその通りですが、その背景にはプーチンと結ぶ「シロビキ」に対して、国有企業を民営化の混乱に乗じて手に入れたユダヤ系新興財閥の「オリガルヒ」の拮抗がある。だから、プーチンは大統領に就任した時に「オリガルヒの一掃」を宣言した。英米資本と結ぶ「オリガルヒ」とクレムリンの対立は、ここにきてプーチンの攻勢によるユコス事件を生んでいる。石油王でロシア最大の富豪のボドルコフスキーが横領と脱税で捕まったのもそのためで、経済分野の支配権を巡る混沌が続いている。
藤原 ガスプロムは世界最大の天然ガス会社として、ヨーロッパ向けのパイプライン網を独占している。世界の天然ガスの埋蔵量の三割近くを握っているし、ロシア国内のガス生産のほとんどを支配している。
 このガスプロムをプーチンが抑えているが、その他の石油会社は民営化で「オリガルヒ」の支配下にあり、株主や経営者のほとんどがユダヤ系なんですね。レーニンの革命の中核がユダヤ人だったように、ソ連解体後のロシア経済の支配者がユダヤ系だというのは、実に意味深長なことだと言えそうだ。
木村 ユダヤ系は幅広い人脈と国際感覚が豊かだし、プロフェッショナルやビジネスの分野に多くの人材を確保しており、とくに金融は得意にする分野の代表だ。だから、経済が混乱している時に上手に立ち回り、民営化した企業の上層部やメディアを支配しているのです。
藤原 科学や技術分野の権威も多いから、ロシアの石油会社のトップは圧倒的にユダヤ系が占めている。ユコスの社長のホドルコフスキーやチュメニ石油のフリードマンを始め、シベリアのシブネフチ石油のアブラモビッチ、シブネフチ石油のベンソフスキーなど軒並みユダヤ系です。
木村 シベリアの名前が出たついでに聞きたいのですが、アンガルスク油田の石油がここにきて注目されています。東シベリアの石油をパイプラインでナホトカまで運び、日本に持ってくる計画ですが、日ロ外交の目玉として浮上している。しかも、その成功の決め手は埋蔵量だと言われているが、十分な埋蔵量が果たしてあるのかどうか、石油問題の専門家として、藤原さんはどう見ていますか。
藤原 あれは小泉流の人気稼ぎの思いつき外交です。中国がアンガルスクの石油を買う話を調印したと知って、経済産業省の役人が泥縄的に作った計画案だから、埋蔵量など無関係なヨタ話をメディアが騒いだのです。
 中国が年間三〇〇〇万トンの石油をロシアから買い、パイプラインで大慶油田まで運ぶという話に、日本が横から割り込んでロシアに対案を出した。日本は年間五○○○万トン買う。そのためにはナホトカを輸出港として整備する法案があり、パイプライン建設費や港湾整備費を融資するという、札束の威力をちらつかせた杜撰な計画だった。だから、世界中で茶番劇だと物笑いになった。
木村 外から見るとそんな程度の話だったのですか。われわれのようなロシア問題の専門家にとっては、シベリアの資源開発は非常に重要だと思うので、北方領土に準じた外交課題だと考えたのですが、世界から物笑いになる程度の内容だったとはね…。
藤原 国際石油政治は戦争や反乱にも結びつく。ところが、自己中心的で希望的観測に支配されて気づかない、目先の損得勘定だけの小泉首相や日本の財界人では、まともなことができるはずがない。そのくらいのことは、プーチンだったら十分に心得ているはずです。


米イラク侵略の本当の狙いは?

木村 シベリアから一気に中東に眼を転じると、イラク戦争に関して説明する簡単な論理の一つとして、ブッシュやチェイニーなどのホワイトハウスの首脳たちが、石油資本と結びついていたからだと言われている。だが、それだけの理由であんな大規模な軍事行動は起こさないと思いますが、石油の専門家の立場から見た意見はどうですか。
藤原 ユダヤ系クルド人はキルクーク油田を欲しがり、サダム・フセインを最も排除したかったのはイスラエルだ。だから、イラク攻撃の背後にイスラエルのシャロン政権がいて、その代理人のネオコンが動いたのは確実です。同時に、イラクの石油は米国にとって貴重な獲物だが、地政学的にはイラクを米国の属国にすれば、宿敵のイランの牽制とカスピ海周辺の油田権益を守る橋頭堡になり、ロシア南部からペルシア湾までを制圧できるわけです。
木村 ということは、イラクの油田ではなく、カスピ海周辺の石油と天然ガスの確保ですか。
藤原 イラクの石油は米国の石油会社にとって重要で、進攻前でもカリフォルニアの輸入石油は三割がイラク産であり、米国全体でも一三パーセントもイラク石油を買っていたが、問題はサダム・フセインに米国が振り回されていた事実です。だから、ブッシュは九・一一事件の前からイラク侵略を計画していて、口実は大量破壊兵器でも何でもよかった。
 というのは、世界最大の債務国である米国が君臨しえた背景には、世界の基軸通貨であるドル札を好きなだけ刷ればよく、ドルの垂れ流しでアメリカ経済は成り立っていた。とくに、石油の決済はドルだけで行なうことになっていた。ところが二〇〇〇年、一月にサダム・フセインはドルを止めてユーロ決済に踏み切った。したい放題を続けたアメリカに挑戦し、ドル支配に正面からノーと言ったのだから、これがワシントンの逆鱗に触れる反逆になったわけです。
木村 ドゴール仏大統領が四〇年前にやったのと同じことを、ユーロが発足した段階でサダム・フセインに再びやられた。それではドルによる世界経済の覇権体制が崩れる。米国としては許せないと激怒したのは確かでしょう。
 ロシアの大統領選挙の観察でモスクワに行ったとき、昔「ドルショップ」と呼んだマーケットで買い物をしたら、ユーロしか受け取らなかった。この事実からしても、すでにドルよりユーロが評価され、ロシアでは国家レベルでユーロ体制に移行している。米国にとって、事態はいかに深刻かということがよくわかりました。
藤原 ロシアでは、ドルは闇市場を抑えているけれども、表の市場ではすでにユーロの卓越が始まっている。これがロシアが輸出する石油や天然ガスに適用され、ノルウェーやOPEC(石油輸出国機構〕諸国にも波及するようになれば、アメリカの没落が本格化するということです。
木村 それを恐れてイラクを叩いたとすれば、予防攻撃をしたことの辻褄が合いますね。


「新国際標準」支配をめぐる文明の相克

藤原 しかし、それ以上に強烈な文明レベルでの相克がある。私は三〇年前に出した著書『虚妄からの脱出』で詳しく論じたが、今や「SI」支配権争いが本格化していて、世界標準を誰が握るかという問題です。「SI(システム・アンテルナショナル)」は単位における国際基準を指していますが、三〇年前に旧メートル法が大幅に変わって「SI」になり、それまでのミクロン、オングストローム、ミリバールなどに代えて、新しくナノメーターやヘクトパスカルといった単位が登場し、それが世界の統一規格の尺度になったわけです。
木村 ヨーロッパ諸国やロシアは昔からメートル法を使い、日本人もメートル法で教育を受けているのに、アメリカ人や英国人はヤードポンド法ですね。でも、最近の日本では尺貫法を懐かしがる復古調の気分が高まり、メートル法をあまり大事にしていないですね。
藤原 日本は急速な反動化で祖先帰りをしているが、世界全体の流れはメートル法を越えてSIに移行している。メートル原器をパリに持つフランスは、啓蒙主義の中心として世界規準を確立するために、英米流のアメリカ基準の世界化に抵抗しています。地球の子午線の長さを四万キロメートルと決め、その四〇〇〇万分の一を一メートルにしたのがメートル法ですが、その後クリプトンの波長を使って訂正して、地球レベルを宇宙レベルに上げたのがSIです。それに対して、英米の尺度は体が基準の単位であり、足の長さのフィートはエジプト以来で、マイルは約五〇〇〇歩の距離のことだし、これは十進法に基づいていない単位です。
木村 英米では道路標識に未だマイル表示を使っているし、温度もファーレンファイトを相変わらず使っているのは、保守主義の伝統が強いせいでしょうね。
藤原 過去に国際基準だったシステムを利権化して、それを守り抜かないと支配力を失うと考える米英は、巨視的な立場など理解したくないと言い張り、新しい文明運動に対して抵抗している。
 しかも、石油開発の分野は英米の石油会社が君臨し、パイプラインの口径はフィートやインチで計測している。井戸の掘削技術やプロセスもインチ単位です。だが、もしこの分野がメートル法で置き換えられると、国際的な単位での優位性を失ってしまうので、それに対して感覚的な反発が露呈したわけです。


腰を据えてロシア外交に取り組むとき

木村 ということは、世界基準における支配権争いの一種であり、会計基準や特許法などで具体的に問題化している“アメリカ基準”を世界標準にする野望の一環ですか。
藤原 そうです。ルールを支配する者をルーラー(支配者)と呼ぶから、米国はデファクト・スタンダードを押さえようとしている。だから、イラク攻撃に反対したフランスやドイツに対して、ラムズフェルド国防長官は「古い欧州」と罵倒したが、実は米国や英国のほうが時代遅れで旧守派なのに、教養のないラムズフェルドは天に唾したわけです。
木村 米軍に協力を求めたラムズフェルドに言わせると、イラク派兵に踏み切ったポーランドやスペインが、「新しいヨーロッパ」だという表現でしたね。
藤原 アメリカ人の頭脳水準はそんな程度であり、味方でなければ敵だと決めつけるだけで、文明レベルの問題には理解が及ばない。米国の言いなりになって残飯をもらうために、派兵に応じた従属的国家を「新欧州」と呼ぶ愚かさは、円熟したヨーロッパ人の目にはお笑いだ。米国は文明が理解できない田舎の大将です。宇宙レベルでの尺度を基準にしたSIは天であり、地球レベルの基準のメートル法は地に相当する。人間レベルのヤードポンド法を人だと理解すれば、天地人の「三才」というシステムが成り立つ。
 温度の計測にも天地人の三才が揃っていて、ケルビン(K)、摂氏(℃)、華氏(F)の三つの単位があり、原子が活動停止する宇宙レベルの絶対温度から、液体の水が固体や気体になる摂氏という単位の他に、体温を一〇〇度にした華氏までが並んでいる。
木村 なるほど。それにしても、こうした大事な問題を考えずに、通俗的な言葉の投げ合いで古いとか新しいとか勝手に色分けして、ヨーロッパをアメリカの好みに従って分断し、「文明の衝突」だと決めつけるのは問題ですね。
藤原 人間のレベルでの基準にこだわる伝統主義者には、宇宙レベルでの普遍言語や標準単位の問題が苦手であり、自分に都合がいいものを無理強いしがちです。哲理に精通した政治家がいない日本は、宇宙理念を語る思想家も不在のために、文明発祥の地を戦場にした戦争に加わり、侵略者の側に立って行動した。それは覇権主義としてゴリ押しに結びつくものだから、そんな支配力が君臨するのは限られた期間です。ベルリンの壁の崩壊を見たプーチンにはそれがわかる。アフガンの罠に引っかかっただけでなく、中東でベトナムの過ちを繰り返す米国に対して、時間切れがくるのを待つに違いないと思います。
 その意味では、人気取りで北朝鮮の問題を騒がずに、米中露の三大国とどう付き合うかを熟考して、長期的な国策を組み立てることが重要です。腰を据えてロシアとの外交関係に取り組むことが、世界平和と日本の安全にとっての決め手です。
木村 どうしても身近なことを中心に考えてしまいますが、地球とか宇宙の次元まで含めて政治を考察すれば、気宇壮大な文明論に結びつく。
 しかもここで、エネルギー問題から国際基準にも話が及んだことで、ルールに対しての姿勢を確立することが、国際政治の理解にとっていかに役に立つか、ということがよくわかりました。とても有意義な議論ができて参考になりました。


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