『竹村健一の世相を斬る』


資源石油コンサルタント 藤原肇
竹村健一





海外での石油の掘り方教えます。役人あがりではしょせん無理な仕事だ


石油のあるところ情報あり

竹村: 日本人の中には、ユニークな方がたくさんおられますが、ぼくがいままでいろいろな人と会った中でもっともユニークな方が藤原さんです。現在、カナダのカルガリーで石油コンサルタントをしていらっしゃるわけですが、日本人はカルガリーという言葉すら知らない入が非常に多いんですよ。

藤原: そうですね。

竹村: ところが、あなたによると、情報量の多さでは、世界一がアメリカ・テキサス州のヒューストンで、二番目がカルガリー、三番目がロンドンとか……。

藤原: はい、そうです。

竹村: それはどういう理由ですか。

藤原: 石油会社があろから情報が集まってくる、という事です。将来は、おそらく、ワシントン、東京、モスクワという政治の中心地が情報の中心となるかもしれませんが、いまの時代というのは、政治のポテンシャルが非常に低くて、石油ビジネスのほうが、もっともっとダイナミックなんです。

竹村: ああ、そうですか。

藤原: 世界のいまの政治というのは、石油によって揺さぶられてジタバタしているし、戦争があったり、国がつぶれていったり……。

竹村: しかし、ふつう石油産業とか、自動車産業とか、鉄鋼産業とかというのは、いろいろな産業の中の一つであって、その石油産業の中心のカルガリーが、ワシントンよりも情報量が多いなんて考えられないんですけれどね。

藤原: ところが、日本ではハードウエアとしてのコンピューターはたくさん使っていますけれども、コンピューターというのは、機械それ自身としてはたいした意味がないんですよ。それを使いこなすノーハウ、ソフトウエアが大切でしてね。  
 しかし、政治におけるソフトウエアというのは、までできてなくて、コンピューターをうまく使いこなしていないんです。ところが、石油ビジネスはコンピューターをフルに導入しています。

竹村: という事は、コンピューターから出てきた数字をもとに……。

藤原: いや、それも一つですが、要するに、日本人は数字が大好きですから、数字をあげるとコロッとまいってしまう。だから、いわゆるにせものという人たちはみな、数字をペラペラあげたてていいますが、われわれは数字なんかいわないですよ。
 たとえば、石油埋蔵量などの議論をよくするでしょう。その時ぼくは「どんな埋蔵量が欲しいですか」と質間するんです。

竹村: あまり専門的になるとわかりませんから、まず、カルガリーというのは、どこに位置するか、カナダの太平洋岸から約一〇〇〇キロ人ったところにあるわけですが、ここが、世界第二位の情報基地になるほど大切なのかと、日木人なら意外に思いますね。
 ところが、その一つの理曲は、北極圏を中心にした地図を見ると、カナダとソ連とは対応しているんですね。それであなたの考えでは、ソ連の石油がこれから大きくなると……。

藤原: そうですね。地図で見ると、北極海のところに水が溜まっているので、ここに大きな海があると言っていますけれども、実は窪みになっていて、ソ連とカナダとは地続きで、地質がほとんど同じなんです。
 そして、いま、力ナダで使われているテクノロジーとかサイエンスというのが、ちょうどいまアラスカでも使われていて、これから十年後には、北極海の対岸のソ連で、ものすごい石油開発が始まり、その時に使われる、という事で、いま、カルガリーで仕事をしておくと、十年後にシベリアでどんな事をやるか、という事が全部わかるんです。


短距離型日本は石油探掘はにが手

竹村: ちょっと聞くと、へーというような事をいわれるんですが、そこで、石油の話ですけれども、日本はここ十年くらい、石油が大切だ、という事で、一生懸命、財界も日本政府も多領の金を投資したんですが、あなたの意見によると、それがだいたい失敗に終わっているとか。

藤原: まあ、ほとんどムダになってしまった、という事ですね。ちょうど太平洋戦争の時に、日本入がみな国債を買って大変な金を集めて、戦争をやったのと同じように、やはり、たくさんの税金を集めて、中東とか、東南アジアとかでポシャポシャポシャといっちゃって。何か非常に恐ろしい気がしますね。

竹村: その非常にムダになってしまったという事を、もう少し具体的に教えて欲しいんです。日本国民として、税金が使われているのなら、聞く必要がありますからね。どういうふうにムダになっているんですか。

藤原: 石油開発というのは、サイエンスとかテクノロジーを総合したビジネスなんです。そしてこれには非常に金がかかる。ぼくは石油に関したあるテレビ番組を見て、非常に面白いと思ったんですけど、ハードウエアの部分だけをみても、ものすごいビジネスをやっているわけですよ。

竹村: それなら、日本でもやればいい。

藤原: 日本でもやりましたが、その前にフィルムにならない部分があるわけです。いわゆるソフトウエアといいましてね。

竹村: それが日本にはなかった、というわけですか。

藤原: なかった、という過去形ではなくて、現在においてもないし、将来においてもないんじゃないかと思います。

竹村: なぜ、ないんですか。日本人はメジャーのような経験はないですけれど……。一つには、石油の専門家でない人が、石油開発会社の重役になっている、という事ですか。

藤原: それもありますし、それに人材が育たなかったし、また、育てなかった、という事ですね。人材を育てるには、やはり、十年とか十五年とか時間がかかるわけですね。  
 日本人は短距離選手ですから、どうしても人材を育てるという事もやらずに、どんどん石油を掘ってしまおうとする。  

竹村: 具体的にどういうふうにムダだったんですか。

藤原: いろいろなところで掘ってきたけれども、大部分、石油が出ない。

竹村: 他の国では出ているんですか。

藤原: いや、石油というのは、井戸を一本掘って、そのデークを徹底的に調べて、二本目に掘る時により高い確率でみつけていく。三本目の時は、また一本目と二本目を徹底的に研究し、というプロセスを踏んでいくわけですよ。 ところが、日本の場合、一本掘って出なかったとします。すると、特にトップにいる偉い人たちはお役所から天下りとか、銀行の頭取などをやっていた人ですから、ドライ・ホールだったら、こんなに金をかけて掘ったのに、これ以上金を使うのはいやだという事になる。

竹村: ドライというのは石油が出ない、という事ね。

藤原: ええ。ところが、石油の発見というのは、出なかったところから始まるわけですよ。ドライ・ホールを掘ってからが大変だという事がわからないんです。十本堀、二十本堀りして、二十五本目に大きな油田を発見する、という場合が多いんですが。
 日本の場合、一つ一つの会社は資本金も予算も少ないですから、三本ぐらい掘ると会社がパンクしちゃうわけですよ。すると、データも何もない。会社が動けないんですから…。

竹村: では、日本の石油会社は何十とありますが、それをまとめて一つの会社にしてやったらいいんですか。

藤原: それでもいいんですけれども、大きな会社から能力がすぐれているというわけではないんですね。やはり、すぐれた人たちがトップにいて……。

竹村: 日本には、すぐれた人たちがトップにいないんですか。

藤原: 残念ながら、日本の場合には、石油の専門碍家というよりは、通産省で繊維局長をやっていた人が天下りになって、石油公団のいちばん偉い人になったり、あるいは、銀行で金貸しをやっていた人が、石油開発の専務になったり、商社のベイルート支店でエジプトの綿花を集めていた人を、中東問題の専門家だからといって石油会社のトップにしたりするんですから、これでは石油はみつからないんじゃないでしょうか。

竹村: いや、そういう人がトップでも、石油をみつける技術者を使えばいいんじゃないですか。

藤原: やはり、いちばん上に立つ人たちが情報を判断し、どういう行動をするか、非常に早いデシジョン(決定)をしていかなければなりよせん。


法外な値段で油田を買って世界の笑いもの

竹村: 聞くところによると、アブダビのアドマ石油という、ブリティッシュ・ベトロリアーム(BP)が持っていた油田を日本がものすごい金で買ったと。

藤原: そうです。もう七、八年も前の事ですから、くわしい事は忘れましたけれど、何か国際価格の十倍だか二十倍だったか。なにしろドイツのデミネックスという会社が高過ぎるといったのを日本は法外な値段であっさりと買っちゃった。
 だから、世界中から、「日本人はすばらしいカモである」と、ペテン師が次々にやってきて、インドネシアヘ誘い出したり、ペルシャ湾へ誘い出すと、みなそれに乗ってしまうわけですよ。ペテン師は、ダブルの背広を着ていますから、見かけではわかりませんからね。
 それに、石油ビジネスというのは、サイエンス・テクノロジーが非常に複雑ですから、何か能書きや数字がズラズラ並んでいると、日本人はすぐにつられてしまうわけですよ。
 ぼくがやっているコンサルタントというのは、それを評価する仕事なんです。
 ところが、日本では、いわゆるコンサルタント業というのは、まだ育っていませんね。

竹村: しかし、日本の石油会社は外国のコンサルタントに頼んでやっているんでしょう。

藤原: ほとんど自分の会社の中やっているんじゃないんでか。
 それと、いい話というのはデシジョンの早いところへ売れてしまうんです。ぼくらはアメリカで石油を掘っていちばん高く買うところへ売る仕事ですから、デシジョンを早くし、すぐに目の前で小切手を切れないとダメなんですね。

竹村: 日本は切れない……。

藤原: そうです。日本の場合、いちいち本社にお伺いを立てて・課長・部長・常務・専務・社長……というように。

竹村: それだけ慎重にやっていても、アブダビ石油みたいなものをつかまされているんですか。

藤原: いい話というのは早く消えちゃって、時間がかかる話というのは、向こうとしても「これは儲かるいいカモだから、ゆっくり料理しよう」という事なんです。

竹村: それであなたは、日本の石油事業には莫大な資金が投じられているけれども、非常に下手なやり方をしていると。

藤原: 非常に残念ですね。これだけ日本がお金を使うんでしたら、もう少し有効に使ったらいいと思うんです。
 それから、日本では直接アプローチ≠ニいって、あるところで石油を掘って、それを日本に直接持ってくる、という考えなんです。だから持って来られるところでしか掘れないんです。それをやっていてはダメなんですね。
 持って来れなくても、たとえば、まアメリカとかカナダとかで掘った石油を、アメリカの石油会社に売って、アメリカの会社が、サウジアラビアとかインドネシアとかの石油と交換する、というように、ワンステップ、ツーステップおいてビジネスを考えないと。直接持って来られるところの話というのは、いかがわしい話がほとんどなんです。
 ほとんどというよりも、要するに、いい話が残っていないわけですよ。残念ですね。

竹村: 日本は石油だけではなくて、ほかにも、たとえば外交でもやはり下手をしてますか。

藤原: 下手ですね。スタンドプレーはやってはいけないんです。政治においてももちろんですが、特に外交の場合は、相手に信頼されるように、外国とつき合っていかなきゃならないんですが、どうしても日本人というのは、手柄を立ててやろうとか、おれがおれがという感じでね。
 特に日本の政治家には多いですね。福田さんも首相の時にアラブヘ行って、かなりミソをつけましたからね。

竹村: それなら、全部ダメじゃないですか。


アラブとうまくつき合う法

藤原: 全部ダメなんです。実はアラブ入が来てもらいたい人がいるんですよ。まず現役の首相です。もし来れない場合は、昔ファイサル国王が日本に行っているのだから、それに相当する人が来て欲しいと。ぼくは天皇が政治に利用されるのは嫌いですが、向こうの連中はそれを期待しているんです。

竹村: では、天皇陛下はもうお年ですから、皇太子でもいいわけですか。

藤原: そうかもしれないですね。しかし、行ってただ挨拶しただけではダメなんです。もう少しまじめに、一体アラブ人たちは日本に何を期待しているのか、を考えなければいけないと思います。特使を出すんでしたら、たとえば、サウジアラビア大使を十年間やり、中東に二十五〜三十年間いて、アラブの人たちをたくさん知り、アラブ人たちから非常に信頼されている黒田さんなんかに行ってもらったらいいんじゃないかと思いますね。
 アラブ人というのはつむじをまげると始末が悪いわけですよ。ぼくもお客さんとしてビジネスやってますけど、なかなか誇りが高くてやりづらい。ぽくも頭が高い男ですけれど、アラブ人はもっと頭が高いんですよ。
 それで、アラブ人が、いちばん求めているものは、一緒にやってくれるパートナーなんです。

竹村: 三井がイランでやっていた事業はそういう形でしょう。

藤原: ああいう工場のようなものでなくて、もっと運命を共にするような事をやって欲しいと。実は、日本は明治維新の混乱期からこれだけの工業国家、近代国家になった。その苦労した道筋をまねて、立派な国づくりをやりたい。そのために知恵を貸して欲しい、いろいろ協力して欲しい……と。

竹村: すると、教育とか、そういうものを手伝っていくわけですか。

藤原: そういう事も大切ですし、それに、いままでみたいに何でも東京へお伺い立てて指令を受けなければ動けないような人ではなく、その入が本当に実力があるから、という形で日本がサポートして、いざとなったらアラブの土になれる人が欲しいわけですよ。
 アラブだけじゃなく、世界中がそう思っているんですよ。メキシコだって、おそらくブラジルだってそう考えているんじゃないですか。

竹村: 総合的観点が必要だという事でしょうね。ヨーロッパではいま、EC諸国が軍と協力して、一つの経済圏をつくろうという包括的な考え方を持ってますけれども、日本はその時々の処理に追われるんですね。石油が足りなくなるというと三木さんが行ったりしてね。

藤原: そう、土下座してくる。それではダメなんですよ。それで、日本入には世界からよく思われているという一人よがりの傾向があって、ぼくが日本にくると「アメリカは日本の事を何と言っていますか」と聞かれるんですが、「何も言ってませんよ」と。これが答えなんですよ。 竹村 日本の事なんか、あまり新聞に出ないですね。

藤原: そう。日本人は自分自身の事をもっと知らなきゃいけないですよ。ところが、自分の事は知らないで、敵の事はよく知っている。

竹村: よく知っていますかね。

藤原: まあ、かなり知っているでしょうね.しかし、日本人はお人好しですからね。特に外国人からほめられると嬉しくなって有頂天になってしまうんですね。だからぼくは「中国入・ロシア人・アメリカ人と付き合う法」という本の中で、「日本入は自分分の事を知らなければいけませんよ」という事を書いたんですが、日本では読んでくれないでしょう。
 どんな本を読むかというと、エズラ・ヴォーゲルの「ジャパン・アズ・ナンバーワン」。アズ・ナンバーワンであって、イズ・ナンバーワンじゃないんですね。「ナンバーワン」というのは、要するに、キャバレー用語で、「良く稼ぐ」という意味ですが、そういう形で書いたものがベストセラーになっている。
 頭のいい外国人はみな日本を持ち上げるわけですよ。そういうおぺんちゃらばかりせっせと聞いて、どんどん持ち上げられて自己陶酔している。日本という国はすばらしい国で、二十一世紀は日本の時代になる……なんていっているが、実は、日本の外側では、石油問題で大変で、明日の石油が来なくなったら、日本経済なんていうのは、全く動かなくなっちゃう。そんな感じですね。つまり持ち上げられて、最後に高いところからストンと落とされる。


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