『財界 にっぽん』 2009.09月号
ネオコン政権が日本を破滅に追いやった
国際ジャーナリスト 藤原肇
ジャーナリスト 猪野健治
平成維新が必要でも短兵急にはいかない 猪野 藤原さんはアメリカ在住と うかがっていましたが、アメリカ を離れられたそうですね。 藤原 アメリカの資本主義は潰れ ましたから、もうアメリカにいて もしょうがないと思って、台湾に 移住しました(笑)。 猪野 これからはアジアというこ とですか。 藤原 いろんな意味で、アジアで しょう。 猪野 最近の日本の政治も潰れた も同然の状態で、私は平成維新が 必要だと思うんです。その平成維 新の最大の眼目は、対米追従から の脱却です。藤原さんは最近、 『さらば暴政」(清流出版)という 本を出し、自民党政治を徹底的に 批判されています。本日はその本 の中身を中心に、日本の政治の空 洞化を徹底的に解剖し、この国の 政治のあるべき姿を探りたいと思 います。 藤原 平成維新が必要だといわれ ましたが、「維新」という言葉は ファシストの言葉です(笑)。 猪野 いや、必ずしもそうじゃな
いですよ。いま日本の右翼は「反
米」だけでなく、自主独立を主張
しています。昭和維新から連想す
ると、そういうイメージがありま
すが、昭和維新という言葉は明治
維新から来ていますからね。維新
というのは、これまでの旧い体制
を壊し、新しい体制を創っていく、
という意味です。
藤原 ただ、維新は体制内での権 力の収奪戦であり、人民から沸き 起こったレボリューション(革命) とは違います。 猪野 私がイメージする平成維新
は、昭和維新とは違います。実際、
対米従属から脱却しようと思えば、
相当の緊張を強いられます。また、
国民の大多数がその方向に賛成す
るように、誘導していかなければ
ならない。短兵急にはいかないと
思います。
藤原 日本国内では、政権交代と か政界再編などと言っていますが、 世界から見ると、日本はほとんど 存在感がなくなっています。評価 されていないというか、日本ナッ シングになっています。だから、 今の政治を立て直す中で、日本サ ムシングというものを考えていく 必要があります。 猪野 当然です。
その場合、対米従属を含めて、
国際関係をどう変えていくかです。
私はイギリスを除いたEUの路線
が正解ではないかと思います。イ
ラクに参戦しなかったドイツ、フ
ランスの路線ですね。その路線を
とれば、中国とも対決しなくて済
みます。領土問題は残りますけど
ね。
猪野 さて、『さらば暴政』は自 民党政治に引導を渡すような厳し い内容になっていますが、最初に 藤原さんの思いをうかがっておき たいと思います。 藤原 実は、この本の大半は、二
年前、安倍政権時代に書いたもの
です。それが本にならなかった。
それにはその前段があるわけです。
私は小泉政権時代、『小泉純一郎
と日本の病理」(光文社)という
本を出しました。当時は小泉を
「よいしょ」する本ばかり出てい
ましたが、世界から見た小泉の実
像を書いて、小泉を批判したわけ
です。
猪野 まあ、現在の日本の政治を 「暴政」と位置づけているわけで すから、出版社も腰が引けるでしょ う。(笑) 藤原 調べてみると、明治以降、 日本で「暴政」という言葉をタイ トルに使った本は、たった三冊し かないそうです。今回も「暴政と いう言葉は強すぎる」と言われま したが、私が言う暴政は、「善政」 に対する言葉ではなく、世界的に 通用している「公共善」「共通善」 に対する言葉です。「公共善」「共 通善」とは、その国に住む国民の 幸せのために、国は何をすべきか という考え方に立脚する言葉で、 英語で言えば、「コモングッズ」 です。それが日本の政治にないか ら、その反対語である「暴政」を 使ったのです。 猪野 「コモングッズ」つまり 「公共善」「共通善」という言葉の 反対語としての「暴政」を持ち出 すところなどは、日本脱藩して、 アメリカに拠点を置きながら、世 界から日本をウォッチしてきた、 藤原さんならではですね。 藤原 私は二十五年間、アメリカ
にいました。その間、アメリカの
資本主義は帝国主義的に、やりた
い放題やってきました。弱肉強食
の論理で、あらゆる悪どいことを
やり、その果てに自分のエネルギー
を消耗して、世界からつまはじき
にされる。その内部崩壊と外部崩
壊が一気にやってくるのではない
かと見ていましたが、案の定でし
た。それに加えて、欲望丸出しの
金儲け主義が行き詰って大恐慌を
きたしている。何百年に一度とい
う金融帝国主義の終わりを、この
二十五年でつぶさに見てきたわけ
です。
猪野 二十五年間のアメリカ在住 で、日本人が知らないアメリカと いうものも感じたでしょう。 藤原 アメリカは民主党、共和党
の二大政党ですが、実は民主党も
共和党も共和主義を理念にしてい
ます。日本は共和制とは相容れな
い君主制だから、共和制のことを
全然わかっていない。だから、さ
まざまな政党が生れては消えてい
ますが、一度も共和党は出てきて
いません。
猪野 どのようにして調べたんで すか。 藤原 学生の父兄なら、大学にも 出入り自由です(笑)。シカゴ大 学はネオコンの巣窟であり、金儲 け資本主義の総本山でした。 猪野 シカゴ大学を調べているう ちに、シカゴがネオコンの巣窟と わかり、マネー資本主義のルーツ. もわかって、アメリカの帝国主義 的な資本主義は、いずれ破綻する と確信したということですね。 藤原 そういうことです。私が日 本も危ないと深刻に感じたのは、 「私は日本のネオコンである」と 主張する安倍が首相になったとき です。これはアメリカに引きずら れて破綻すると思いました。 猪野 安倍は岸信介の孫ですが、 藤原さんは『さらば暴君」のなか で、安倍のルーツをよく解剖して いますね。 藤原 戦前の帝国主義、植民地主
義を戦後に持ち込んだのが、岸・
福田派の流れです。それに対して、
金権・利権を柱にしたのが田中派
です。田中派の流れは現在、小沢
一郎が引き継ぎ、民主党の底流に
ある。岸・福田派の流れは清和会
として、安倍が所属する森派・町
村派に受け継がれています。そう
いう意味では、現在の永田町には、
旧態依然とした共産党を除けば、
昔の自民党しかないわけです。
猪野 そのあたりは『小泉純一郎 と日本の病理」に詳しく分析され ていますね。 藤原 小泉・竹中が外国勢力とつ ながってやろうとしたことが、今 回の大恐慌によって、次第に白日 の下にさらけ出されようとしてい ます。そして、小泉のあとに安倍 が出てきた不透明な背景も、徐々 に明らかにされると思います。そ こは日本のジャーナリズムの真価 が問われるところです。安倍は官 房長官はやっていますが、ろくに 大臣経験もないまま首相になって います。そういう例は、日本新党 ブームに乗って、反自民の連立政 権で首相になった細川護煕ぐらい でしょう。 猪野 安倍は坊ちゃんに過ぎない。 何も知らないですね。その点、麻 生と似ている。 藤原 いや、坊ちゃんというのは
良い家に生れて、きちんと躾けら
れた、物事のわかる人のことです
よ(笑)。安倍はそうじゃない。
安倍家のどら息子ですよ。指導者
はエキスパートでなければなりま
せんが、安倍は全然違う。そうい
う人間を、「安倍ちゃん」などと
親しげに呼ぶ、日本のジャーナリ
ストも甘いですよ。
猪野 児玉が上海から貴金属を運 んだというのは、終戦直前の話で すね。上海の飛行場を飛び立とう としたとき、荷が重くてすぐには 飛べなかった。「何を積んだのか」 と操縦士に訊かれると、児玉は 「黙って飛べ!」と、飛ばせたそ うです。どこの飛行場か忘れまし たが、よく上手く着陸できました ね。積み荷は今で言うレアメタル、 希少金属です。戦後、自民党はそ のカネを資金にして創られた、と 言われていますね。 藤原 戦後しばらく、戦犯として 小菅に収監されていた児玉に代わっ て、その資金を自民党の結党のた めに流したのが、辻嘉六です。要 するに、自民党は右翼とゴロツキ のカネでできたわけです。 猪野 もともとその貴金属は、児
玉が米内光政海軍大将(当時)か
ら、「日本はもう負けたから、こ
れはあんたの旧部下のために使え」
と言われ、譲り受けたものです。
多少は児玉機関で使いますが、残
りは最初、宮内省に預けています
ね。しかし、占領軍に調べられて
見つかるとまずい、ということで、
児玉がまた取りに行くわけです。
その情報が辻嘉六の耳に入り、児
玉のところに交渉に行く。提供す
るに際して児玉が出した条件は、
「天皇制を護持すること」の一点
だったようです。その後、そのダ
イヤモンドを河野一郎が売り歩い
ていた、という話もありますよね。
いずれにしても、古い話ですよ
(笑)。
藤原 しかし、それが自民党の出
発点になっていることは間違いあ
りません。
猪野 ばらまきと言えば、最近の アメリカも背に腹は替えられない と、おおっぴらにやっているよう ですね。 藤原 そう。つぶれかけた銀行や
自動車メーカーを救済するために、
ドル刷りまくっています。刷りす
ぎてインクが足りなくなり、日本
のインクメーカーにまで緑色のイ
ンクを注文しているようですよ
(笑)。
猪野 おっしゃるとおりです。巨 大企業を救済するには、国が資金 を出さざるを得ない。それを安易 に容認していくと、気づいたとき には国家社会主義が根づいている ことになりかねない。 藤原 倒産は資本主義におけるもっ
とも安全な解決策ですよ。それを
国家が干渉して企業を無理に存続
させると、国家資本主義になり、
やがて国家社会主義になる。歴史
は繰り返しますよ。だから、最良
の解決策は「歴史の教訓」に学ぶ
ことですが、力量のない人が真似
をすると失敗する。
一九三〇年代の大恐慌のときに
は、イギリスにケインズがおり、
その前にはマルクスがいました。
マルクスもケインズもすでに破綻
したという人がいますが、これを
超える人が現在の世界にいない。
猪野 アメリカの金融資本主義、
カジノ資本主義と言った方がいい
と思うが、これが破綻した原因は、
企業の会計を時価会計にしたこと
と、そこに金融工学を導入したこ
とです。そして、サブプライムロー
ン的な滅茶苦茶な金融派生商品を
でっち上げて、いわば毒入りまん
じゅうを世界にばらまいた。これ
が破綻することは目に見えていま
した。
藤原 無理でしょう。 猪野 そこで私が心配するのは、 アメリカがその原資を巨額な国債 発行で賄おうとしている点です。 それを誰が買うのか。ヨーロッパ は買わない。中国も買わない。と なると、日本が買わされるのでは ないか。どれくらい押し付けてく るのか。それを考えると、空恐ろ しくなりますね。 藤原 その土壌をつくったのは、 ネオコンに尻尾に振った日本の政 治家たちであり、はっきり言えば、 小泉、安倍ですよ。小泉などは、 メディアを利用して、「改革」を オウム返しに言っていただけで、 ネオコンにいいように利用された わけです。 猪野 小泉改革 の目玉は郵政民 営化ですが、日 本郵政の株式が 売却されるとき が危ない。「か んぽの宿」の売 却が問題になり ましたが、日本 郵政の株を誰が 買うか、これは 厳しくチェック する必要があり ますよ。 藤原 アメリカ
はカネがありま
せん。日本のカ
ネを吸い上げる
ために、知恵を
絞っている。そ
のために工ージェ
ントとして使わ
れたのが竹中平蔵です。竹中は一
年の半々を日米に住み分けて脱税
するような、姑息で意地の汚いな
男です。そういう男は操りやすい
ので、アメリカは竹中を使ったわ
けです。
猪野 民間出身大臣が選挙に出て、 一度参議院議員になったにもかか わらず、小泉内閣が終わると、任 期を四年近く残して辞職してしまっ たのも不評だった。 藤原 日本では、ネオコンのこと をネオ・コンサバティブ、新保守 主義ぐらいに受け止めていますが、 彼らはとんでもない連中ですよ。 彼らの考え方は、カネを稼ぐため には何をしてもいい、強い者は何 をしてもいいという、弱肉強食の 思想です。 猪野 アメリカ流資本主義。
藤原 それは、英国で起こった古
典的な資本主義とは全然関係あり
ません。帝国主義が化け物と化し
たもので、拝金主義に凝り固まっ
たものです。その巣窟が先ほど指
摘したシカゴなのです。ここでも
う一度、シカゴ大学の系譜につい
て詳述しておきます。
猪野 ネオコンの宗教的背景は、 キリスト教原理主義でしょう。 藤原 そうです。ネオコンの大半
がユダヤ系の人たちです。ユダヤ
人にも国際派と国枠派があるが、
国枠派はシオニストと呼ばれてい
ます。
猪野 当然、イスラエルを支持し ている。アメリカではイスラエル・ ロビーが強いですよね。 藤原 アメリカではユダヤのこと
を論じるのは、一種のタブーになっ
ています。アメリカだけではなく、
日本でもそうでしょう。「マルコ
ポーロ」事件を想起しても、ユダ
ヤ人がメディアをコントロールし
ているわけです。ただ、世界には
「ユダヤ陰謀論」というものがあ
ります。悪いことは何でもユダヤ
のせいにする傾向があり、下手に
ユダヤを批判すると、陰謀論者と
間違えられる可能性があるから、
気をつけなければなりません。
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