『財界 にっぽん』 2010.08月号



国際舞台で存在感を喪失し続ける日本

大局観とデコンストラクション思考
に欠けた日本の悲劇

坂田英雄(画家・リラ会長、ロサンゼルス在住)
vs.
藤原肇(慧智研究センター所長、台湾在住)



情報革命の親交による
パラダイム・シフト

藤原 トフラーが「第三の波」で 論じて定着した言葉に情報革命が あり、文明において人類は農業革 命、産業革命に続いて新しい革命 を迎え、現在は情報革命の渦中に ある点は誰もが知っている。革命 はその中にいると激動に翻弄され て、右往左往させられるというの が実感であるが、革命が生むゆら ぎがもたらす現象として、グロー バル化とIT革命が急速度で進行 しています。これは地球が情報の ネットワークで結ばれ、光速度で の情報伝達が実現していることに よって、時間と空間極小化がパラ ダイムシフトを生んだ結果です。

坂田 コンピュi夕や携帯電話の 目覚しい普及が、情報革命の威力 を見事に実証しています。大局的 に見ると日本の電子産業は立ち遅 れて、サムスン電子に圧倒されて しまったということで、希望の星 だったソニーの凋落は、実に残念 でしたが、こんなに携帯が普及す るとは誰も予想しないことでした ね。

藤原 サムスン電子が成功したの は大したことでなく、半導体メモ リーや液晶の生産高が大きいだけ に過ぎず、シリコンチップの時代 の勝者もバイオチップの時代には、 新しいゆらぎに巻き込まれる存在 のはずです。情報革命の主役はコ ンピュータの他にも、空間を舞台 にした人工衛星の分野があるが、 これも米国によって支配されてい ます。俗に言うウィンテル時代と 形容する言葉の通りで、ウィンド ウズとインテルがソフトとハード を支配しているのに、それを突き 崩せないのは残念至極です、マイ クロソフトのウィンドウズは粗悪 品なのに、デファクト・スタンダー ドを武器に市場を支配しており、 これを乗り越えるのが日本にとっ てのフィードフォワドだった。実 は日本にはトロンという素晴らし いソフトや「ジュネット構想」が あり、それを実用化していたら素 晴らしいのに、政治的に米国の圧 力で活用しなかったのです。

坂田 日本はアメリカの植民地み たいな存在であり、政府が完全に 首根っこを押さえられているため に、せっかく良いものを日本人が 作り上げても、それを生かせなかっ たというのでは全く情けない。小 泉内閣がやった郵政の民営化にし ても、日本国民のためではなく米 国の投資ファンドのためというし、 日本人はなぜ国益を守らないのか 不思議です。

藤原 それは国益ではなく日本人 の利益の問題であり、国家の主人 公は人民で、国は人民にサービス する約束を書いた契約書として、 憲法が存在しているのです。だが、 日本では契約を守るという意識が 希薄であるために、首相が契約書 を書き換えると公言しても、契約 を守れとはっきり主張する人が少 ない。それは日本が形だけの近代 国家に過ぎなくて、実はアメリカ の属領であり州以下なのに、それ さえも殆んどの日本人が気づいて いない。

坂田 文明の次元で政治状況を大 局的に見れば、そういうことになっ てしまうのですか。

藤原 そうです。また、自動車は 交通システムにおける輸送手段の 一つで、いうなればマイクロチッ プに相当する存在であり、利用す る人間が多いから商品価値がある が、輸送機関としては鉄道の存在 も見落とせません。しかも、地上 での交通システムとして道路網や 鉄道網が広がり、水上には船によ る運河網や航路網があるし、空に は飛行機による航空網ができ上がっ ている。この航空網の発展したも のに宇宙空間を使い、太陽系や銀 河系を舞台にした技術があって、 ハードでは人工衛星や宇宙船が重 要です。しかも、ソフトとして通 信のネットワークの建設があるが、 日本の産業界は活用する技術を持っ ているのに、世界基準がクリアー できていない状況があります。

坂田 そういう具合に宇宙空間ま で含めて眺めた場合に、日本の経 済システムは地上レベルでの存在 感しかないから、何をぼやぼやし ているのかと苛立ちます。日本人 で宇宙まで展望したのは手塚治虫 くらいのもので、政治家や経済人 でそうしたビジョンを描いて、日 本の未来について国民に語りかけ を行い、行動を起こした指導者が 登場しないですね。


デコンストラクションの時代と
日本の立ち遅れ

藤原 私は手塚治虫よりも清水博 を高く評価します。日本には清水 博のような凄い発想をする科学者 がいて、「生命と場所」とか『生 命を捉え直す」のような素晴らし い本を書き、21世紀の社会への指 針を示しているのに、日本のトッ プには評価できる人物がいません。

坂田 藤原さんが『賢者のネジ」 の「まえがき」で、「多くの日本 人が『バカの壁」を読んで浮かれ ているが、そんな紙屑本ではなく 読まなければならないのは、ダイ ヤモンドの輝きを持つ奥義書だL と誉めていたから、私はさっそく 手に入れて読んで感銘しました。

藤原 そうでしょう。『生命を捉 え直す』(中公新書)の中でフィー ドフォワードの重要性を指摘して、 清水先生は情報の動的秩序につい て論じており、日本は世界の最先 端を行く思想家を持っていました。 しかも、彼は『場と共創」(NT T出版)という凄い本も書いてい て、共著者の久米是志は「共創と 自他非分離心」を執筆し、仏教理 論を援用して分別と縁起を論じて いる。そして、「現代の日本が行 き詰まりの状態にあるのならば、 そこにまず求められるのは国家の 存続という利己心と、それをこえ た人類に対する利他心の合一であ ろう」と書いているのを読み、こ の人は凄い境地に到達していると 思ったが、久米是志は1980年 代にホンダの社長を歴任していた のです。

坂田 そういえば久米というホン ダの社長がいたが、それだけの人 物がいたからホンダはニッサンを 追い抜いて、世界のホンダに躍進 したのかも知れない。だが、久米 さんが日本の財界を指導したとは 聞かないし、マスコミで余り活躍 を取り沙汰されていませんね。

藤原 日本のメディアは価値を評 価する目がないし、一流の人物は 表面に出ないのが普通であり、政 界や財界との関連で登場している のは、ほとんどが三流や四流の人 間に属しています。久米さんがど んな人材を育てたかは知らないが、 少なくとも彼ほどの人物が指導者 としてトップだったから、後継者 の中には優れた人物も多いはずで す。
 だから、エネルギー問題や環境 条件の激変によって、万が一にで も世界の自動車産業か行き詰まり、 トヨタを含め多くの自動車会社が 潰れるときでも、ホンダだけは生 き残るという感じがするのは、既 に飛行機会社への脱皮に挑んでい るからです。
 情報革命の中でパラダイムシフ トが始まっており、デコンストラ クションの一般化が産業界を痛打 するのに、多くの日本の企業は現 状からの脱却を試みていません。

坂田 農耕社会の日本には長老や 大御所はいるが、真の意味での指 導者はいないと昔から言われてい る。だから、ものごとが順調に行っ ている時は問題がないが、大きな 変化や予想外の事態に遭遇すると 破綻に陥ってしまう。クライスラi やGMか行き詰っているし、自動 車産業が過剰設備で苦境に瀕して、 再編成ではとても終わらないと言 うが、それにしても、デコンスト ラクションはそんなに恐ろしい威 力を持つのですか。

藤原 そうですよ。デコンストラ クションは日本語では脱構築と呼 び習わし、「目に見えている現象 や構造に対して、内部から慣例や ルールを変えることにより、新し い機能を持つものに変革する営み」 です。これはゆらぎで渦を起こし て枠組みを作り直し、既存の概念 や存在を異なった角度から捉え直 して、全く異質のシステムに構築 し直すことです。シュンペーター の創造的破壊という概念が、近似 的にはその内容を現わしており、 成功例にこだわることが破綻の原 因になってしまいます。

坂田 伝統主義が強い日本では古 い成功例を好み、世界の常識から 逸脱した日本の常識のせいで、ど うしても未来よりも過去にこだわっ てしまう。そのために過去の延長 で現状を維持しようとして、大変 な状況を迎えて行き詰まってしま うのは、この前の戦争であった原 爆の炸裂がいい見本です。


意味論オンチが
国を滅ぼす実態の到来

藤原 情報革命の中で進んだデコ ンストラクションに対して、産業 社会としての日本が立ち遅れてい るのは致命的です。その結果がこ れまで日本人が得意にした長所が、 あっという間に短所に逆転してし まったことで、社会が脳死状態を 呈す悲劇に結びつきました。

坂田 デコンストラクションで日 本が立ち遅れているというが、ど んな形で立ち遅れが現れているの かについて具体的な例と、その原 因について簡単に説明してもらえ ますか。

藤原 要するにパラダイム転換に 対応できないために、これまで常 識として通用したシステムが全く 役に立たなくなり、機能マヒに陥っ ている例は幾らもあるが、世襲代 議士を有難がるのはその典型です ね。「日本の常識は世界の非常識」 だと知る人はいるが、長期的な展 望に基づく戦略や情報感覚を研ぎ 澄まして、その危険性を洞察して 日本の進路を切り替え、政治や経 済を変革するリーダーが存在しな い。スローガンとして改革を掲げ る政治家はいるが、人気取りのア ドバルーンで思想がない上に、見 通しもプログラムもない思いつき だったので、現実化する危機には 役に立たないのです。
 また、例としては今の日本の産 業構造全体の病理であり、より具 体的には、川下から川上までの一 貫体制を好む性格のせいで、閉鎖 的で恐竜型の構造を持つ財閥系を 始め、外に向かって開かずになん でも自前でやろうとする、系列支 配や総合組織信仰がその代表です。

坂田 でも、それを気にしたら日 本はお先真っ暗であり、日本が誇 る大企業のほとんどが財閥や系列 がらみだから、日本人が築いた繁 栄の自己否定になってしまう。画 家として私の体験だと、決め手は 大きな組織ではなく、各個人の優 れた能力に懸かっているのであり、 組織は目的を達成する手段として 役立つが、機能する程度の大きさ があれば十分です。

藤原 情報のネットワークが発達 することによって、関係性が次元 の枠を超えて広がっていくために、 価値の意味が主体ではなく場で決 まります。しかも、情報は階層化 することによって意味が異なり、 意味論に習熟していない人が扱う ことで、情報はゆらぎに基づく自 己組織化を通じて、その次元にとっ て不都合なカオスが生じます。
 それが現在の日本の混乱と閉塞 性の原因であるが、それは日本の トップが意味論オンチだからで、 かつて私は小室直樹博士との対談 でそれを警告しています。日本に は意味論の使い手として三人の達 人がいて、清水博、小室直樹、正 慶孝は共に凄い学者だが、ある意 味で知る人ぞ知る存在で天才肌だ から、マスコミに取り沙汰される ことがないために、せっかくの優 れた思想が普及しないまま埋もれ ています。

坂田 日本人にとって情報理論や 意味論は難解だし、取り付き難い ので敬遠する傾向が強いから、誰 も厄介な問題に触れたがらないの でしょう。私だって藤原さんのホ ロコスミックス理論を最初に読ん だ時に、こんな面倒くさいことを 何で言うかと思ったが、徐々にだ がダヴィンチが手稿で論じている のと同じで、自然を観察する上で の秘訣だと分かるようになりまし た。全体と部分の関係を理解する ことは重要であり、全体の意味が 分からなければ部分の意味も分か らないことは、私は絵描きとして 十分以上に承知しています。


デコンストラクションにおける
物作り日本の長所と短所

藤原 全体と部分の関係は総ての 分野で決め手であり、産業革命を 生んだ主要な原因の一つとして、 アダム・スミスは分業の役割を指 摘したが、この分業が『国富論」 と資本主義経済における基本です。 しかも、産業革命と同時に始まっ た国民国家政体は、勢力圏内で自 給自足を図るという政治思想によっ て、国家主義や帝国主義を生み出 しました。その代表が資源と産業 を金融で結びつけた形で、官僚の 主導による産業国家の体制を指向 して、日本は横型の財閥や縦型の 系列を作り上げて、先進国の仲間 入りを果たして来たわけです。
 だが、成果がピークに達した20 世紀の後半に、世界第二の経済大 国を実現した時点において、皮肉 にも情報革命が同時進行していた ので、苦労して築き上げた日本人 の汗と涙の結晶は、パラダイム変 換で長所が短所に転化してしまっ たのです。

坂田 でも、それに気づいて危機 感を持つ日本人は、ほとんどいな いのではないかと思います。危機 感があればバブル景気で元も子も 失うとか、小泉政権などが五年も 続かなかったはずです。靖国神社 騒動や子供騙しの小泉劇場に現を 抜かして、今のように国富を使い 果たして老衰に陥らなかったなら ば、日本はサムスンに圧倒されず に済んだはずです。

藤原 サムスンはそんなに気にす る相手ではないし、日韓のシェアー 争いは大局的な問題には属してい ません。パラダイムシフトで産業 社会にゆらぎが始まり、日本経済 にとって長所だった系列支配が崩 れただけで、株の持ち合いが短所 になって銀行が破綻し、日本の金 融界はあっという間に没落に見舞 われたが、これからは脱構築の嵐 の正念場になります。深刻化が進 むのは系列支配の解体であり、合 理化のしわ寄せが下請けに重圧を 加えたので、中小企業は低賃金を 求めて海外進出したが、独創的な 人材は育成するものなのです。技 術流出に加えて人材育成が手薄に なって、産業界の体力と頭脳力の 低下したことは、短期的な利益を 向上させても老化は防げない。し かも、大局観がないから優れた若 い人材を内部で育てる代わりに、 トヨタやキャノンは派遣社員やパー トに比重を移し、日本は社会全体 としての活力を低下させており、 これから本格化する情報革命に対 しての準備の面で、実に心もとな い状態に陥っているのです。

坂田 でも、日本の中小企業の中 には優れた技術を誇り、世界の市 場にとってなくてはならない会社 として、大いに評価されていると いう記事を読みました。
 日本は新素材やメカトロニクス の分野において優れており、確か マブチは世界の小型モーターの大 半を供給し、マキタの工具は世界 で絶賛されているそうで、製品の 良さでは競争相手がいないほどの 個性を誇って、一流芸術家と同じ で丁寧な仕事が尊敬されています。

藤原 それが正解です。特定の分 野に特化して良い部品を作る企業 が、これからは物づくりでは世界 の市場を相手にして勝ち抜き、世 界規模での分業の主人公になる時 代です。
 その点でブランドネームは包装 紙に似たものになり、主要部品が ブランドネームとして製品を代表 するようになる。現にトヨタもホ ンダもモーターの製造元で、それ が心臓部だから組み立てて商品に しているが、部品のほとんどは車 門メーカーのものです。また、借 界の自動車のデザインの九割がパ サデナ生まれであることは、マネー ジメントの生みの親のドラッカー 先生が報告したことだが、デザイ ンの洗練さは世界一だと思ってい たので、イタリー人がこの情報に 驚いたと言われています。

坂田 芸術の伝統を誇るイタリア 人の驚きは、おそらくすさまじい ものだったと思います。版画にけ ダリが署名した作晶が大量生産六 れ、彼の署名が包装紙代わりに伸 われたように、包装紙がブランド ネームとして商品を代表し、価値 そのものを直接表さなくなるとい う意味になりますね。

藤原 日本の自動車はエンジンや 部品の多くが国産でも、そのスタ イルのデザインはアメリカ生れだ し、世界には純粋の国産車は殆ん ど存在しなくなり、組み立て会社 がブランド名を支配しているに過 ぎません。20世紀にインテグラル 方式だった自動車は、電気系統は カナダ、タイヤはフランス、デザ インとシステム系統はアメリカ、 エンジンは日本という具合に、世 界レベルでの分業と組み上げ機能 の拡散によって、モジュラi方式 に体質と生産過程が移行している。 また、電化製品や飛行機も似たよ うなシステムであり、ソニーやキャ ノンは登記上では日本の会社だが、 製品は中国やマレーシアの工場で 作られている。ジャンボ・ジェッ トの製造プロセスも同様であって、 ボーイングも電子部品の一部は日 本製でボディとエンジンが米国製 です。
 日本の産業構造は縦型のインテ グラル方式であり、生産者にとっ て好都合な系列化に基づいた、部 品の供給から販売までを一貫支配 してきた。だが、情報化で世界市 場が購入者主導になって、自給自 足によるインテグラル型は有効性 を失ってしまい、脱構築しない限 り生き残るのが難しくなりました。


デコンストラクション時代の
補給と兵站の役割

坂田 情報ネットワークが世界に 張り巡らされて、われわれ絵描き も各国の画家と連絡しあう時代だ から、ビジネスの世界なら相乗効 果が絶大なので、古いやり方はど んどん変わっていくでしょう。
 芸術には国境は無く作品の良し 悪しだけで、評価が決まってしま う過去の歴史から考えれば、出身 地がどこの国かを気にするのはお かしい。モジリアニはイタリーで ピカソはスペイン出身だが、パリ で芸術家と評価されたことからし て、レクサスは品質さえよければ 日本の車でなくてもいいのです。

藤原 ただ、レクサスが品質を維 持できるかは疑問で、トヨタだっ て日本の会社であり続けるかどう かについては、新日本製鉄が新イ ンド製鉄に名前を変えれば、果た してどうなるか誰も分からない状 況にあります。日本車の優秀性は 日本の鉄鋼の高品質のお陰であり、 モーター用の鋼鉄を始め外装用の 鋼板の質の良さによって、日本車 が安全で故障が無いという評判を 獲得し、これまで世界の市場で多 いに健闘できました。だから、日 本の自動車メーカーは米国を始め 各国に進出し、日本の技術指導を 受けた同盟関係の各国の製鉄所か ら、鉄材を供給されてこれまでは 車を組み立ててきた。だが、日本 以外の製鉄所がほとんど買収され てしまったために、吸収買収で世 界一の製鉄会社に大化けして、イ ンドのミッタル製鉄が現れたのと 似た現象が、他の産業部門に起き ても不思議ではないのです。

坂田 インドにはタタという巨大 な財閥があり、大きな製鉄所や自 動車会社も持っているが、それは ミッタルとは別の会社なのですか。

藤原 ミッタルは新興の製鉄グルー プで新日鉄の三倍の規模で、ヨー ロッパの製鉄所はほとんど吸収し 終わり、世界中に支配する製鉄所 を持つだけでなく、新日鉄を吸収 合併する可能性も濃厚です。
 戦略的に見ると、各国で組み立 てている日本の自動車会社は、戦 場に於ける軍隊や戦艦に相当して いるのであり、製鉄会社は鉄製品 の補給と兵姑を担当していたのだ が、このシステムが崩壊しかけて いるのです。

坂田 経済のグローバル時代になっ ているのだから、それなら思い切っ てミッタルから鉄鋼製品を買って、 自動車を作り続けたら良いのでは ないですか。

藤原 ところが、ミッタルの鉄の 品質は悪いことで知られ、鉄材の 供給次第で日本車は高品質の維持 が出来なくなって、国際競争力を 喪失しかねないだけでなく、「鉄 は国家なり」の新日鉄の存在もど うなるか分からない。しかも、ミッ タルは乗っ取り専門の禿鷹ファン ド的な体質を持ち、リストラによ る合理化で利益を稼ぐやり方で、 短期利益を狙う経営を得意にして おり、会社や社会の運命など重要 視しないのです。そうなると、ト ヨタやホンダの運命はガダルカナ ル島の日本兵と同じで、必要な補 給が途絶えて餓死や全滅の可能性 があり、レクサスの成功などは 「橦花一朝の夢」になります。

坂田 余り愉快な話ではありませ んね。万が一に新日鉄や住友金属 が買収されれば、自動車だけでな く機械工業や電子産業を含めて、 日本の産業界は様変わりしてしま いかねない。

藤原 日本の産業社会の将来を大 局的な目で見ないで、トップが目 先の利益だけを考えて経営すれば 無責任であるし、だからといって 民族主義は時代遅れです。
 世界を吹き荒れる情報革命の意 味を分からず、政治家が靖国神社 にこだわっていれば、ゆらぎによ るデコンストラクションの威力は 絶大です。ゆらぎは「バタフライ 効果」でカオスを生むが、インド で一羽の蝶が羽ばたくことにより、 東京や北九州市を竜巻や台風が襲 うだけでなく、日本列島に巨大な 津波や地震が襲来しかねません。 それがデコンストラクションを伴 う情報革命の猛威であり、大局観 の欠如は悲劇に結びついてしまい、 日本の運命を

坂田 しかも、アメリカの没落が 時間読みの状態にあるし、「アメ リカがくしゃみをすれば日本が風 邪を引く」状態は、昔も今も殆ん ど変わっていないのも事実です。 日本人は快調なときには胸を張っ て元気なのに、不調になるとたち まち委縮して隅に引きこもり、喜 怒哀楽に振り回されて自閉症にな るが、平常心と自信を持っ

藤原 明治維新までの日本は鎖国 で孤立していたが、20世紀の末ま では古い秩序が生きていて、産業 社会をアーキテクチャーから展望 すると、アメリカが知識集約型と して圧倒的な位置を占め、ブラン ド力を誇る欧州は知識と技術の混 合型でした。また、日本は技術集 約型を追求してそれを特技にし、 日本を手本にして韓国と台湾が追 いかけ、中国は労働集約を生かし ているのが現状であり、東南アジ アの新興諸国が雁行して続いてい る。だが、これからは情報革命の 変動が激化するし、目の前に迫っ たホームストレッチの追い込みの 勝負は、指導者の大局観に関わっ ているので、デタラメな政治は止 めるべきであり、愚劣な政局を止 めて真の政治に取り組み、亡国の 危機を克服することが最優先です。
(完)


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