最近読んで印象的だった本
1 名前: 藤原肇 投稿日: 2005/05/03(火) 03:32:41
「戦後日本の十大名著とは」のスレッドが低迷しているのは、十大名著を選ぶのが難しいという理由の他に、自分が読んで良かったと思う本に触れたいという気持が、このスレッドでは十分に生かしきれないことが関係し、それが阻害要因になっているという感じがします。
最近(過去でもいい)読んだ本で印象深く感じ、仲間と分かち合いたいという気分になった本があれば、この欄を使って議論したらいかがでしょうか。
言い出しっぺの私が先ず書き込むことにして、陣内秀信さんの「イタリア小さなまちの底力」(講談社)を読み、毎年のようにイタリアには行っているのに、見落としたものが余りにも多いと気づかされ、この夏はイタリアにまた行きたいという気持になりました。

2 名前: 海原並彦 投稿日: 2005/05/03(火) 09:59:06
戦後日本にこだわらないということですと、感想を分かち合いたい名著は結構出て参ります。
藤原博士、貴重なご提起をありがとうございます。

先日、帰郷した折に、少年時代に読んだ、ソ連の歴史家イリーンとセガールによる『人間の歴史』(岩波書店)を20年ぶりに再読しました。
この本は函に「小学5、6年生以上」とあり、少年少女向けの本のような印象がありますが、語り口は平易なものの内容は相当に高度です。
(この本は、現在40代くらいの方がティーンエイジャーだった頃は、学校の推薦図書のような形で誰もが書名を知っている本だったのではないでしょうか。ところが現在の感覚では、大人向けだとしても結構骨のある本といわれてしまうかもしれません。活字文化の衰退を感じます)
正直言って、10代の初めに読んだ時はよく分からないところが多かったのですが、今読んでみると非常な名著だな、という感慨を味わいつつページを繰りました。
主にヨーロッパの歴史が中心ですが、ロシアというある意味ヨーロッパの周辺部の作家であることもプラスに働いているのでしょう、バランス感覚の優れた鳥瞰的な視点で、壮大な人類史のうねりを描き出す試みが行われています。

またこの本は、単に歴史的な出来事を物語るだけにとどまらず、人類の思想史ともなっており。特にヘラクレイトス、タレス、アナクシメネス、アナクシマンドロスなど、ソクラテス以前の哲学者達に関する記述が出色だと感じました(ちなみに、ソクラテスについては批判的です)。こちらも唯物論が標榜された共産圏の作家であることがプラスに働いているように思えます。

イリーン氏はおそらく、近代、もしくは現代に至るまでの人類史を構想していたのでしょうが、逝去によりルネサンスの手前までとなっているのが非常に残念です。

ともあれ、ビジネスマンの間では、戦国や幕末の人物伝や歴史小説が依然として人気がありますが、グローバル化の中、こうした人類史をひもとくことも非常に役立つのではないでしょうか。

また本書からは、以前の脱藩総会で話題に出た「ソフトな形で進行する奴隷化」についても多く示唆を受けるところがあったのですが、こちらはまた別のスレッドで寄せてみたいと思います。

3 名前: 小田麻実 投稿日: 2005/05/03(火) 15:09:48
藤原さんが陣内秀信氏の著書をご紹介くださったおかげで、私も本棚にある氏の
2冊の著書の存在を思い出しました。
陣内秀信著「ヴェネツィア 水上の迷宮都市」(共に講談社現代新書)
そして「南イタリアへ!地中海都市と文化の旅」
5〜6年ほど前に初めてヴェネチアを訪れる直前に知人から贈られたので
この本を持って読み進めつつ滞在できたのは幸運でした。
イスラムの迷宮都市についても実地研究を進めている著者自身、この水の都に
2度にわたり在住した経験を持っているようです。
水上都市としての側面、イスラム的要素を感じさせる迷宮都市としての側面、
交易都市としての側面、から街の機能の細部(市場、広場、劇場、祝祭、流行など)
を五感で捉えています。
ガイドブックの類は常に俯瞰図で街を眺めますが、陣内氏の著作では
位相的に臨場感を持って都市の魅力を伝えてくれます。
イタリアには小さくても舞台装置として大変魅力的な都市がたくさんあり
最初にハードを築きあとからソフト面を充実というのではなくて、ハード・ソフトの
微妙なバランスを保ち発展してきたように感じます。
陣内氏はイタリアが専門だから著書はないだろうがウィーンやパリも同様に捉えて
彷徨ってみたらいろんな発見があるだろうと思います。

5 名前: 藤原肇 投稿日: 2005/11/08(火) 11:37:18
読者の渡辺さんの葬儀の後で憂いを和らげるために、数日の小さな旅行をして帰宅してからの五日間は、届いていた二冊の本に引き込まれてしまい、食事を忘れるほどの思いで頁をめくり瞑目して思索を楽しんだ。一冊目の本は『近代市民社会論』(今日の話題社)であり、これは中村勝己教授が慶応大学経済学部で、四年生を相手に行った一年分の授業の講義録である。ライプチヒ大学を母型にハーバード大学を手本にして作った、慶応大学理財科の伝統を守り続けた中村先生が、マックス・ヴェーバーの仕事を下敷きにしながら、学問とは何かについて薀蓄を傾けたもので、ヨーロッパ式の学びの雰囲気を満喫できる内容だ。
二冊目は『近代市民社会論(大学院編)』という本で、これは先生が退官する前の大学院で一年間行ったゼミ的授業の語り下ろしであり、『丸山政男講義録』より遥かに整理されていて、学問の真髄に接することができる名著である。私は一週間足らずの読書三昧によって、大学の学部と大学院の数年間を体験できたと感じ、生きていることの喜びをかみ締めることが出来た。それは『KZP』の中でエピソードを紹介した、ケット・ドゥ・ヴァリー教授の書いた『Leaders, Fools and Impostors』(iUniverse, Inc) を読み、INSEAD(欧州経営大学院)に行かずして学んだ満足感と同じ、実に充足した気持ちになった時の再元だった。
私の体験を皆さんに分かち合いたいと考え、これらの本をプレゼント本に加えたいと希望するが、ゾンビ政治が支配する日本の経済はガダガタで、中村先生の珠玉といえるこれらの本を出す出版社が無く、先生はこれを自費出版されたのだと、私にこの本を送ってくれた将基面さんから知らされている。そこで何十冊かを頒けて頂け得ないかと、中村先生に連絡を取っているところであり、もし、入手が実現したら『KZP』の出版祝を兼ねて、プレゼント本の中に加えることにしたいので、それが実現することを百日一日の思いで待ち望んでいる。
自費出版あるいはそれに近い形で出た本は、図書館にもないという悲しい問題が現実にあり、それを私は『賢者のネジ』で体験している。『賢者のネジ』の場合は百冊買ってくださった人が五人もいたし、寄贈キャンペーンに協力してくれた人がそれぞれのやり方で、図書館に寄贈して下さって私は感激した。そこで、もしも中村先生の本が難しすぎると感じた場合には、近所や母校の図書館に寄贈していただければ、日本人が誇る名著を次の世代に伝えられるし、それが真に価値あるソフトの蓄積だと思う次第である。

6 名前: 藤原肇 投稿日: 2005/12/11(日) 04:34:29
『近代市民社会論』(今日の話題社)が亀山さんのところに届き、プレゼント本の中に加えることが出来て嬉しい限りです。これは中村勝己教授が慶応大学法学部で、四年生を相手に行った一年分の授業の講義録であり、学問とはこういうことかと感じる名著です。
ただ、『近代市民社会論(大学院編)』もプレゼント本にしたかったのだが、在庫はなく増刷りする予定も無いから悪しからず、という返事を中村先生から頂き入手できなかったので、この本を持つどこか良い図書館を探し当ててください。
中村先生の二冊の名著を『KZP』と共に、全世界の日本語学科を持つ大学の図書館に寄贈するつもりだったが、大学院向けが無くても残りの二冊のコンビということで、本が到着したら発送したいと待っている状況です。

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