まえがき 文明の次元におけるひとつの重大な転機を迎え、われわれを取りまく生態環境としての社会が目まぐるしい勢いで変化し、価値観だけでなく、価値そのものの有効性と意味が問い直されようとしている。個人の次元はいうにおよばず、企業、自治体、国民国家といった組織体としての社会の次元、さらにその総体としての世界や自然界が織りなす多層構造のそれぞれの次元が動揺している。あらゆるものが新しい秩序の下に再編成されようとしているなかで、日本という小さな国民国家は目標を見失っているだけではなくて、自分達が一体どのような状況のなかで、どんな立場に置かれているかを認知するうえで、必要な座標軸を喪失し、それゆえに生じた混沌さえも混迷として意識てきないでいる。
地球上で進行しているさまざまな混乱は、文明における巨大な地殻変動が関係している。とくに国際政局では、石油を中核にした資源エネルギーの分布と配分とにまつわる手カセ足カセか深刻な摩擦熱を発生させている。とりわけ国民国家の枠をはみ出している多国籍企業と国家との対立が尖鋭化し、国家間のぶつかり合いという伝統的な東西関係と並んで、南北問題が深刻な様相を呈している。そ
祖国が今まさに遭遇しようとしている新しい試練を前にして、高度に発達した産業社会を作りあげた一億人の日本人が、一体どのような方向で生存条件を確立しなければならないいかは、もはや明日の課題ではなくて今日、本日の問題てある。本書は『虚妄からの脱出』(東明社)、『日本脱藩のすすめ』(東京新聞出版局)を含む三部作の構成主体であり、マクロの次元で挑めた日本の新幕末論である。混迷する日本の再起をはかる意味で、本書が何らかの一石を投じることができればこんな嬉しいことはないし、私以上に多くの困難に立ち向かっている日本のジャーナリスト諸氏の力強い活躍を期侍してやまない。
一九八○年一二月
藤原肇
目次 まえがき 1 分裂と統合の時代 二○世紀の時代性
2 ジオポリティクスのすすめ 国家を超えて
3 テクノロジーを超えて 石油産業は怪物か?
4 どこが経済大国? 水ぶくれの日本経済
5 度がすぎるお人好し 円は新聞広告のチラシ
6 倒錯している国際感覚 逆立ちする劣等感
7 育たぬ人材 豊臣秀吉と足利尊氏
8 鈍感の国・日本 好機を逸した日本外交
9 未来は「石油」から まだ早い原子力時代
10 日本がやることは多い 明治維新下の産油国
|