日本が本当に危ない
1994年06月25日初版発行 本体価格1262円+税
エール出版社
絶版
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はしがき
目の前で進行している政治や経済をはじめにした日本の社会変化は、地質用語の地殻変動という言葉がピッタリなほど、猛烈な勢いで激しく揺れ動いており、ことに太平洋の対岸の米国からは鮮やかに観察できる。
より具体的なイメージで表現するならば、日本列鳥全体が嵐の海に翻弄される小舟に似ており、波頭の上から波の谷底に落ち込んだり、次の三角波に気づかず進もうとしている状況は、はらはらする気持ちを抑えるのに苦労するほどだ。それにしても、日本列島の中で船の揺れに気付く人もいれば、レストランのご馳走に舌鼓をうって満足中であったり、バーでほろ酔い気分でカラオケに興じている者もいて、人さまざまな快感や時代精神が読み取れる。アメリカから小舟に似た日本列鳥を観察する私の目には、頭の中に衛星写真で組みたてた気象図があり、気圧配置が世紀未の低気圧の発生を示し、風に煽られ海が荒れ始めている様子がよく分かる。
だから、こんな時期には船出の代わりに雨戸を閉め、晴耕雨読の古人の教えに従って思索したり、普段は疎遠な家の内外を整理したらいいと考えて、そんなタイプの本を過去十数年にわたって上梓してきた。
船長や航海士をはじめ船員一同の腕が確かであって、仕事への責任感や見識がたとえ優れていても、嵐の前の船出や暗礁地帯に針路をとるのは無謀だから、私はかつて『日本不沈の条件』や『無謀な挑戦』と題した本を書いたこともある。
だが、最近はこの船の行方を論じなくてはならなくなった。それにしても、乗客たちは楽しみに興じるのに熱中しているし、サービス要員の公僕はチップの計算に忙しく、取材のジャーナリストまで酩酊加減なのも、気がかりになって仕方がないのである。
そんな描写だけでは真面目な読者に申し訳ないので、全体の流れを日本で普通に行われるのと逆の方向に、上位概念の側から下位概念を捉えていくという、総合に基づくシステム思考の応用を試みてみた。
そして、文明論的な側面で嵐の危険性を浮上させることが、今の日本の実態を明らかにする上で最も大事だと考えて、本書を現時点で読者の批判に供した次第である。
一九九四年五月
藤原肇
目次
はしがき
序章 「日本」を冷静に観察する習慣を身につけよ
耳ざわりのいい言葉しか聞こうとしない日本の皆さんへ
・日本の皆さん、虚像と実像を識別する目を持とう
・ほめられるとすぐ嬉しがるクセを改めないと外人に荒稼ぎされる
・一歩離れた地点から日本を観察する習慣を身につけよう
☆少し厄介な理論を皆様にご紹介する理由
これは「日本」を診断するノウハウです
・科学者時代の私は波動理論学派に属しました
・読者の皆さんに面倒臭い話をながながとお読みいただく理由
1章 米国から眺めた日本の醜い世紀末現象
成り金ボケの日本の皆さん、不況を「薬」と考えられませんか
・不況になり、慌てて経費節約や首切りをする経営者は無能だ
・日本人は自民党の独裁政治や中曽根の亡国政治の犯罪性を総括せよ
・政治家や官僚の堕落は日本が亡国路線を走っている証拠
・リクルート事件をマスコミが徹底追及できなかった理由
小沢一郎的イカサマ政治がなぜまかり通る
・米国から見ると小沢一郎は欺瞞だらけなのになぜ誰も指摘しないのか
・韓国の金大統領に笑われないように政界の大掃除を撤底せよ
・国会議員が多すぎる。衆院は二百人、参院は四十人で十分だ
・日本はハード偏重のT型休質を改め、ソフト指向の人間を活躍させよ
2章 経済大国と胸を張るが実情を知らぬは日本人ばかりなり
日本をダメにした中曽根元総埋の罪状
・竹下元蔵相の円高受け入れのインサイド情報の疑惑
・日本人の意識を拝金一色に塗り込めた元凶は中曽根康弘だ
・金丸や竹下が攻撃されたのに中曽根が安全地帯に居られた不思議
・何ともうさん臭い児玉、小佐野、中曽根、笹川、そして小沢と続くCIA人脈
日本が後進国であることは米国から観るとよくわかる
・若者よ、積極的に留学をせよ。外国体験を通じて国際感覚を磨け
・長谷川慶太郎、牧野昇、唐津一、大前研一などに共通する欠陥
・時代遅れの大蔵官僚の発想は太平洋戦争時の日本軍部と同じだ
老害族が消えなけれぱ日本の企業はよくならない
・平岩前経団連会長の歯切れの悪さとお粗末な感覚が情けない
・T型発想のトヨタの会長が財界トップでは日本経済の未来が不安
・松下幸之助会長をやんわり批判したらボツにされた
・米国の知識人は盛田・石原の『N○と言える日本』を愚劣と批判した
3章 米国から見ると経済大国日本は幻影にすぎない
日本を悪くしたのは大蔵官僚だ
・タクシーからゴルフまで会杜持ちという今までのほうが異常だった
・危倹なカジノ経済に日本を誘導したのは自民党と大蔵官僚だ
・官僚が政界に進出するとなぜ「最悪」の政治家になるのか
・苦しまぎれのインフレ待望論の仕掛人にご用心
・詐欺師同然の過去を持つ大蔵省の手口を公開する
日本経済を再生するにはどうしたらいいか
・日本経済の袁弱を手ぐすね引いて待っている不気味な資本家たち
・ボヤボヤしているといただかれてしまう
・客家という漢民族の血のネットワーク
・日本人の知らない日本の秘密を知りたければ海外の情報紙や知識人とコネをつけよ
・韓国と北朝鮮が戦ったら、かつての特需景気どころか日本経済は大混乱する
・湾岸戦争はK型戦争の実験の場で、米国は作戦から兵器までいろいろテストした
・トヨタのカンバン方式は社会システムの流れを阻害している
・冬の時代が長びいても我慢せよ。この際に大手術をして日本を再生させよう
何度でも叫ぶ。日本が本当に危ない(あとがきに代えて)
何度でも叫ぶ。日本が本当に危ない(あとがきに代えて)
*ここまで読んでいただいた方にお礼を申し上げます
全体を読み抜いて、この〔あとがき〕にたどり着いた読者に、著者として心から〔おめでとう〕の祝辞を送りたい。なぜならば、少しばかり難解な序章を読破し、本文でなぜ日本がK型に脱皮しないと本当に危ないかを理解した人は、意識の水準が高まったと予想できるからだ。
なぜ本書を読んだだけでそれほどの能力を持つのか。また、文明の次元で社会の在り方の本質を正しく把握したり、未来の方向に対して自信を持って見つめ、新しい挑戦のアプローチをなぜ組み立て得るかというと、本書が奥義を教える虎の巻だからである。
日本の普通の本と違って本書の読破は安易でなく、思考のアプローチが内から外へとは逆に外から内へのベクトルを持つので、内容の理解に前頭葉を使う必要があるし、強靱な思想の歯で秘め事を噛み砕く苦労もいる。だから、途中で投げ出したいという衝動に支配され、著者を呪いたくなった人がいても不思議ではない。それは普通の人間にとって当然の反応であり、苦労しないで名医にはなれないのと同じで、プロの医者になるためには膨大な学問を修めるとともに、厳しい修行が課せられているのである。
私は構造地質学という地球のストレスの専門家であり、地球が患者だという特殊な医学部門のプロとして、地上最大のビジネスの石油産業の中で生き、二十世紀を支配した経済帝国の頭脳中枢に陣取り、実地検証で自分の仮設の正しさを確認してきた。
こんなことを言うと藤原は頭が狂って誇大妄想に陥り、あらぬことを口走っているという人が現れて、これは未世と世紀末がもたらす狂気だから、話を信用したら危ないと忠告するかもしれない。そういう指摘があっても結構なのであり、昔から自分の能力が及ばない相手に対して、人は山師という表現で中傷したものだが、私はその目利きとして本物の山師の人生を送ってきたのである。
大衆相手に講演料や印税稼ぎなどはしないが、耳を傾ける王侯貴族やプロだけを相手にして、コンサルタントとして意見や判断を披露しながら、理解能力のある人たちに私はアドバイスしてきた。また、総長顧問として総長の代理で他の大学や研究所を訪ね、大学総長や教授たちを始め沢山の人と議論した印象では、現在のアカデミアは制度疲労で沈滞している。
ラィプニッツ時代の大学とは内容がまったく変わり、現代の大学はアカデミーになったはずだが、その知的ポテンシャルは大したことはなく、教授の多くは科学の水準で仕事をするだけで、学問が矮小化していると私には思えてならない。
本当に価値ある発想のできる人間は、『第三の波』を書いたトフラーのように、自由人として好きな人と交擦して市井に生き、組織の中で生活するパターンは持っていないし、そのほとんどは時代の中で評価されず、変わり者や半気違い扱いをされていたり、山師として煙たがられている場合が多い。また、意味論の上で用心しなければならないのは、世の中に本物の山師は非常に少なくて、山師と呼ばれる人の九九%はニセ物に属している点だ。そして、日本には山師モドキはかなり存在しているが、そのほとんどは詐欺師とペテン師の仲間であり、本物のソフトやインテリジェンスを持つ者は、〔盲亀の浮木〕と同じで非常に珍しいのである。山師の序列については『脱藩型ニッポン人の時代』で論じたので、それは拙著を参照してもらうことにして、話を締めくくるために結論に入るとしよう。
*日本を観るのはアメリカからが一番いい
普通の書店で売られている大衆向けの本では、一般に第一章から第四章で論じているような、観察事項や事件などの記述とか意見が中心であり、序章にあるようなノウハウに触れていることは少ない。
このソフトの精髄は文明における間脳に相当し、医者が診断する時の洞察や判断基準と同じで、一般には公開しない奥義秘伝に属している。医者は診断(ダイアグノシス)の一部をカルテに記録するが、患者には結果としての病名を告げるだけで、診断のプロセスやノウハウは公開しないものである。
また、正しい診断をするのは名医の仕事であり、私自身が専門家の世界で生きてきた体験で、医者でも弁護士でもプロの九割が凡庸であり、わずか一割足らずが逸材であると知っている。そして、優れた人はソフトと閃きの才能を持っているが、この能力はインテリジェンスと同し光輝を持ち、遠くから眺めても眩しいものに包まれている。だから、一般の人には暗黒の虚しい残像しか与えないので、それが一種のブラックホール効果を生み、山師の世界を彩る悪印象を与えてしまうのである。
現在のサイエンスは相対性理論の限界のために、ブラックホールの実態については解明できず、それを克服するためには〔幽霊層の場の理論〕を超えた、メタサイエンスの導入が不可欠であり、二十一世紀はメタサイエンスの時代になる。
序章で紹介した第一図が示しているのは、メタサイエンスの探求に船出する時の海図であり、ホロコスミックスを空間投映した図で、影に属している領域が幽霊相の場に相当し、全体を虚次元が包んでいる。これはメタサイエンスの最先瑞の副題を持つ、『宇宙巡礼』(東明社刊)から転載したものであり、この図を頭の中に入れておくと羅針盤以上に役に立つ。
現在の日本が陥っている混迷の最大の理由は、サイエンスがないまま肥大したエンジニアリングに依存して、大量生産の拡大再生産に毒されているためである。だが、二十一世紀はメタサイエンスによって新しい文明時代を約束され、メタサイエンスの理解抜きではパイオニアの役目を担えないし、K型社会の指導原理をメタサイエンスが内包している。
『宇宙巡礼』は世界で最初にメタサイエンスを論じた本であり、一九九四年五月には台湾で中国語版が出版されて、二十一世紀が太平洋の時代になる上での一石になろうとしているが、その一石が生む波紋は太平洋に拡がって行くはずである。
本書がなぜアメリカから見た日本をテーマにしており、見る場所がアメリカでなければいけないかの理由は簡明で、アメリカはサイエンスが最も進んだ場所だし、メタサイエンスに移行の可能性に最も富んでいるからである。だから、アメリカから日本の問題点を考えることが、日本国内であれこれと無駄な議論をするより、はるかに優れた診断が可能になるし、東京が日本に関しての情報の発信地だという、致命的な誤解を修正することができるのである。
また、自ら科学と技術の真髄をマスターした糸川英夫博士が、「日本には科学はなく技術だけがある」と警告した通り、日本はサイエンスにおいて立ち遅れたまま、エンジニアリングの水準だけが突出し、そんな状態に満足している様子がアメリカからよく見える。だから、〔プライオリティーを尊重しない風土からは、クリエーティブな発想、独創的なアイディアは出てこない〕と書き、モラル喪失社会の行き着く先を危惧して、糸川博士がその著書の題名に使ったように、『日本が危ない』状況が深刻な様相を呈しているのである。
しかも、政治や社会システムの上でK型を指向せずに、T型やM型の水準のものを死守しようとしているし、日本のメディアがその文明史的な意味を理解しないで、金儲けや小遣い稼ぎに忙しい状況にある。また、日本人の多くが文明が内包する律動を外圧と取り違えて、国をあげてヒステリックな反応を示し、大きな枠組みを見ないで目先の利害に支配され、しかも必死であるが故に「日本が本当に危ない」と言わざるを得ないのである。
著書
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