日本人論の陥し穴
1982年01月15日初版発行 本体価格1000円+税
山手書房
絶版
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まえがき
「経済大国日本」という言葉が日本列島の上を覆う。一億の日本人が、この言葉のもつ心地よい響きに陶然としている。同時に、「アメリカ経済の低迷」、「ソビエト帝国の崩壊」、「ヨーロッパの没落」といった刺激の強い活字がジャーナリズムやマスコミ界に氾濫していることもあって、日本人は日露戦争直後に似た大国意識のなかで、安逸の気分に包まれている。
しかし、これまで自分が追い上げる目標にしてきた国々がトータルな神通力を喪失して、目の前で部分的な停滞をみせているからといって、その分だけ日本の位置が高まったと早合点するなら、それは思い上がりだと気付いたほうがいい。なぜなら、近代日本のあらゆる機構自体が、それらを手本にして積み上げたものである以上、エビゴーネソ(亜流)が遅かれ早かれ同じ運命を迎えることは、発展法則が示す歴史のさだめに他ならないからである。
「治にいて乱を忘れず」という『易経』の言葉が、今日ほど強い力をもって日本人に迫ったことは、過去半世紀においてついぞなかったといえよう。この意味で、孫子の「彼を知り己を知れば百戦殆からず」という言葉を思い起こして、今こそ日本人は己を知るために、ゆっくりと自分のまわりをながめわたす作業にとりかかる必要がありそうだ。一億の日本人が民族として己を知る努力をする第一歩は、国内に氾濫している日本人論や日本文化論の実態がいったいどのようなものであるかを、ゆっくりと検討してみることである。
自らを測定する規準を外から借りているために、日本人は外圧と呼ぶところの外からの種々の干渉に対して、時には劣等感に苛まれ、別の時には優越感で居丈高になったりする。その振り子の揺れ動きのなかで、畏縮したり、いばりちらしたり、を繰り返しては、最近における夜郎自大現象の主役を演じているのが、ニセモノ日本人と不良外人の二種類の人間であり、その生態については曲がりなりにでも、問題の所在を指摘しておかなければならない時が来ているようである。
そこで、ロッキー山脈に陣取った地の利を生かして、我々三人がこのテーマで、岡目八目のブレーン・ストーミングを試みたのが本書である。この点では同し顔ぶれで、国際景気と外交問題を論じた『中国人・ロシア人・アメリカ人とつきあう法』(亜紀書房)の続編にあたる本書は、ある種の読者に歴史における大義の存在を読み取っていただけるものと確信する。ブレーン・ストーミングは談論風発の妙と、予期しなかった話題の展開の面白さに、その生命力があるが、異郷にあって祖国を思う三人の心の中の悲劇が初めから終りまでつきまとっていたことを報告しておきたい。これは、救いがたいほどの人のよさが、日本人全体の運命を損なっている最大の理由だ、という結論があまりにも明白だったからだ。
ニセモノとすぐ化けの皮がはがれる虚妄の日本人と、日本の運命にとってあまり感心できない不良外人の横行を許しているのは、日本人があまりにもお人よしなせいであり、それは日本人が己を知らない民だということに基づいている。悪を知らずに善人であることは、悪を知り抜いた上でさらに善人を貫き通す生き方に比べると、あまりにもひ弱な存在のしかたである。
弱肉強会や適者生存が世界における法則だとしたら、悪人になる必要はないにしても、日本人はもっと悪に強くなる必要がある。日本が二一世紀に生き残るためにも、一億人が善に強いし悪にも強い、たくましい存在になってほしいと、心からの声援を送ることにしたい。
一九八一年十二月七日 真珠湾の日
藤原肇
目次
第一章 日本賛歌ほど危ないものはない
CIAのお先棒かつぎ
ハーマン・カーンの予言はデタラメだった
おだてられると喜ぶお祭り好き日本人
知米派日本人のアメリカ知らず
喋れない日本外交に救いはない
レーガンの芝居次第で日本は危ない
お人よしニッポン人
相互不信から隣り組へ
第二章 かつぎ出された学者たちの虚像と実像
無内容の“不確実性”でボロ儲けしたがガブレイス
フリードマンは時代遅れのロスチャィルド家のPRマン
フリードマンにみつぎ過ぎるとケガをする
知ったかぶりの宣教師・ライシャワー
世渡り上手だけが生き残った世界
米スポークスマンとなり下がった国際派評論家たち
日本の置き屋文化人たち
売春政治がはびこる日本
第三章 日本は三流外人の絶好の標的
『ザ・ジャパニーズ』で米の対日観をゆがめたライシャワー
底の浅い歴史観の上の官僚的発想
アズとイズの読み違いに便乗した三流学者・ヴォーゲル
日本向けのチラシ広告だった『ジャバン・アズ・ナンバー・ワン』
イカサマ日本人論の元凶・ベンダサン、デンマン、ボネ
外国人が日本で成功する法
落ち目の外人がドサ回りにやってくる
第四章 文化とはとても呼べない日本文化
外から見ると日本文化がよくわかる
自国の文化を超えられぬ日本人
文明と文化の次元の差
不良外人につけいられるスキ
日本人ほど殺し丈句に弱い国民はいない
おだてあげればベストセラー
度の過ぎた善長さは亡びの原因
第五章 続々と誕生するダメな日本人
優れた外人の苦言に耳を傾けよ
不長外人は体制にとっては優良外人
シラケ世代台頭のメカニズム
今の大学は失業者収容所
アメリカの下請けになる運命
不良外人がなぜ日本に流入するのか
今はダメだが昔の男はスゴかった
第六章 国際社会で生き残る精神
良い不良外人と悪い不良外人
日本では共和思想は育たない
米国の大豆政策の裏側にあるもの
ニクソソも汚い手口の不良外人だった
今の世界のトップは二流どころ
生れ故郷にしがみつくな
日米自動車摩擦はアメリカ側に原因
ディベィト下手は国益を損なう
アメリカ人の本音を引き出す法
著書
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