「マチュアライフ」2002年創刊3号
巻頭言

藤原肇
(フリーランス・ジャーナリスト=在米)


社会への恩返しのすすめ




 失政で長びく不況と金詰まりのために、企業は人件費を削減しようと、早期退職者の募集や昇進停止などを始め、40代で転職の肩叩きをしている。その一方で、社会危機回避のため、年金受給年齢引き上げや定年延長が言われているが、退職金の年金への繰り入れの方が優先ではないか。日本人の平均余命が世界最長の水準に達し、出生率が大幅に低下して社会の老齢化が進むから、定年延長は一見もっともらしいが、果たして正しい選択かどうかは疑問だ。定年延長は、情報革命の進展で社会が知識集約型になり、組織と個人が非固定的なネットワークで結ばれるのに、仕事と個人の関係が流動化するのを阻害する。 
 年金の保障ネットは第2の人生の支えであり、それが第2の職場かボランタリー活動になるかは、個人の能力や好みによって違うが、いずれにしても組織に従属する生活態度の限界は見えている。50歳を過ぎたら人生の軸足を社会への恩返しに移し、それに意義を感じて生き甲斐にする人が増えることで、荒廃した日本を立て直せるのではないか。
 1980年代の中曽根内閣から竹下内閣時代に、カジノ経済で投機による金儲けが蔓延して、日本は拝金主義に毒されてしまい、その後の長い不況のために、社会は余裕を失い、日本は閉塞感で息苦しい社会に成り果てた。政府の累積赤字は税収の20年分に近く、その借金の山を築き上げたのは、中央と地方政府の両方で行政が肥大化し、日本の社会に恐竜が君臨しているためである。
 その克服には小さな政府を指向するとともに、企業や団体が地域社会の企業市民≠ニして、社会に利益還元をする思想に従う必要がある。その原動力は社会人意識の確立した個人である。円熟した世代が知恵と経験を生かして、自発的な行動としての恩返しに参加することが、開かれた社会を作るのだ。
 たとえ僅かでも老後の貯金と年金があれば、爽やかに人生を生きることは可能だ。力ーネギーが「人間はカネを持ったまま死ぬのは恥だ」と言ったのを思い出して、自力で社会への貢献を目指す人が増えることを期待したい。


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