『財界 にっぽん』 2010.02月号



『無血革命』後の日本を展望

国民の政治選択に政治家はどう応える

政治評論家 平野貞夫
vs.
国際ジャーナリスト 藤原肇



半世紀以上の長い歳月のなか で構築されてきた構造を変える ことは、普通であればそれ以上 の歳月を要する大事業である。 だからこそ革命が必要なのであ ろう。“無血革命"で誕生した 民主・社民・国新連立政権は、 困難な大事業の推進に取り組ん でいるが、その理念・意識がど のようになっているかが、大事 業の完成にとって重要な位置を 占める。そうした事象に精通し た2人が忌揮のない言葉で語っ てくれたのが、本対談だ。今号 を第一回として数回にわたって お届けする予定である。



民主党大勝の選挙を海外では革命と捉えた

本誌 本誌 本日はお忙しいなかをこの 対談のために時間を割いていただ きありがとうございます。早速、 本題に入りたいと思いますが、先 の衆院選で政権交代が実現したの を機会に、日本の過去、現在を見 つめながら、日本のあり方や展望 を語っていただけたらと思ってい ます。折角、政権が交代して新し い流れができるのではないかと期 待したいところなのですが、メディ アなどの反応には、そうした期待 感がみえません。いかがなもので しょうか。

平野 私に言わせれば、そういう 発想がもう古い。もっと深刻な問 題がある。それで折角のご提案で すから、まず、藤原先生から政権 交代についての感想を聞いてみた い。

藤原 実は、私が選挙の結果を見 たのはヨーロッパに行く途中のシ ンガポールの空港でした。直ぐに キオスクで新聞を手にしたら、中 国語の新聞は“「回天」”と書い てあった。英字新聞には「レボリュー ション」と書いてあり、これは革 命だと、外では革命と理解してい た。だから、これから革命のやり 方をきちんと行えば国民が幸せに なると思いました。
 ところが、日本の新聞の見出し の多くは「政権交代」でしかない。 革命はレボリューションというが、 交代はローテーション。日本の政 権を奪った民主党が、選挙に勝っ て政権交代レベルでしかとらえて いない。これはお粗末だなと思い ました。
 実は、レボリューションは天文 学用語の「公転」が語源です。そ れに対してローテーションは「自 転」。公転の“公”はいわゆるパ ブリックである。このパブリック の問題が日本でダメだったのは自 公政権だったからです。要するに プライベートなことばかりやって いた。民主党の人も“公”のレベ ルの考えに基くのでなく、“私”、 つまり“自”のレベルで考えて、 自分の利益で考えるなら困ったも のだ、と思ったのが第一印象でし た。

平野 その“公”と“私”の違い は大切な視点ですね。それと革命 という考え方は貴重です。

藤原 そうみると、世界にいろい ろ革命があったが、これから日本 は、最後にギロチンが出てくるフ ランス革命にしないで、英国の名 誉革命やアメリカ人がアメリカ民 主革命と言っている憲法を基にし た、アメリカ型民主主義の方向に 行くことが重要です。平野さんは 国内でご覧になっていていかがで すか。

平野 まさしくそこが問題です。 選挙での自民党の壊滅的敗北、そ して民主党の歴史的圧勝。308 (獲得議席)は奇跡的数字と言え る。私が最初に感じたのは“無血 革命が実行された”という言葉だっ たが、その革命を成功させる、定 着させることは、具体的なことを言 えば政権のつくり方、そして新しい 政権の政治をどう世界に示すかと いうことであり、無血革命を成功 させるのは大変なことだと思った。
 一般のマスコミ、それから敗け た自民党、なんとか勝った民主党 の側も、あまりにも自民党の政治 が悪かったのでお灸をすえたと論 評した。学者もそう言っていた。 政治家のなかでも“無血革命”と 言ったのは小沢一郎だけだった。

歴史上の大事件を機にデモクラシーの完成へ

藤原 ところが鳩山首相は所信表 明演説で、「無血の平成維新」な どと寝ぼけたことを言っていた。 “維新”というのはファシストの 言葉です。権力内でイニシアチブ をどっちが奪ったかという時に使 われる。英・仏語に訳すとクーデ ター。鳩山首相は所信表明で「無 血クーデターをやった」と発言し たことになり、これではナポレオ ン三世と同じですよ。
 だから困ったな……と。この人 たちは意味論が全く分っていない。 要するに、理念がしっかりしてい ないから、所信演説で前半に折角 いいことを言ったのに、最後の所 で「画龍点晴を欠いた」のであり、 まとめとして実にいいかげんなこ とを言ってしまった。しかも、メ ディアも学者も誰もそれを指摘し て批判できなかったのが情けない。

平野 しかし、デモクラシーをど う完成させるか、ということ、議 会制民主主義をどう良いものにす るかという点においては、初めて 日本で民衆が選んだ政治選択でし た。日本の2000年というか2600年というか(笑)はともか くとして、歴史上、かつてなかっ た大事件だと思う。
 私が一番気にしたのは、革命と いう言葉を使う限り、私個人の意 見としては、国家を指導する人間 の意識の変化、向上が果たしてで きるのかどうか、これをやらなけ れば本当の革命にならないという ところです。

藤原 今、民主党のマニフェスト がどうかとか、予算をこうやると か言っているが、それは処方箋や 処置である。まず第一に、現在の 日本が病気だと診断して、これま での政治が、つまり自公体制がい かに暴政だったかを明確に指摘し なければいけない。しかも、それ を民主党の国会議員が理解して疾 患に取り組むためには、一番大事 な作業が正確な診断をすることで す。今まではどうだったか、今ま での日本が前近代だったことをはっ きりさせない限り、これからの日 本の社会が近代社会として世界に 通用する国としての方針も理念も 出てこない。
 その理由は、今までの自公体制 は宗教と政治が一体化し政教非分 離であって、日本は世界から立ち 遅れていた。要するに、文明の歴 史は近代が政教分離で始まったこ とを教えており、日本は近代にし なければならない。という人が民 主党の指導者として出てきて欲し かった。

平野 今のお話を私流に解釈する と、政治家だけじゃなく学者も含 めて日本人は歴史認識が基本的に ないのです。だから、現代という 時代がどういう歴史的段階にある のか、その中で人間を人間がどう いうふうに捉えていくのか。これ がないと私は、政治の議論は始ま らないと思う。これがまったく欠 けているのです。

藤原 その通りですね。

平野 1980年頃からそれが一 切ないと私は感じている。

藤原 いや、明治からではないで すか(笑)

平野 私のように政治の中にいる 人間の立場で言うと、明治生れの 政治家には限界はあったが、それ らしきものはありました。

藤原 そうですね、「四書五経」 をきちんと読んでいましたから。

平野 文明が分かっていた。

藤原 そう、日本人が西欧文明と 繋がる必要があった時に、明治の 人は大陸文明を識っていたから、 文明社会に乗り出すことができた のです。

平野 その通りです。

官僚化した政治家にできるか官僚支配打破

藤原 ところが、今の日本人は漢 文は読まないし、中国の古典を理 解しない。世界の古典ももちろん 読めない。教育水準もそういうレ ベルに達していない。だから、文 明から逸脱した文化のレベルでの 議論をして、文明の議論が行われ ていないのです。

平野 要するに、明治時代には人 間の在り方とか、国や社会の在り 方の根っこの部分を、平民でも指 導者でも誰でもが考えなければい けないという意識があった。だか ら、別に学問をしなくてもいいの だし、皆が学問をやれるわけじゃ ないが、それなりに考えようとし ました。
 ところが、私の体験から言うと、 大正生れの人たちが政治をやるよう になって、結局、技術論だけ。根っ こというか思想の部分、方向性とか 理念や目的というものを、明治生 れの人たちは学歴がなくても、そ れなりに考えて官僚に示した。ま た、昭和50年代の中頃までは官僚 がそれを理解して制度をつくった。
 ところが、昭和50年代の後半に なると、政治家は官僚の係長クラ スが知っている政策や数字などを 知ることが専門的だと思い、立派 な政治家だという風潮が出てくる んです。そうなると、制度の方向 性とか目的、理念を政治家が考え なくなる。
 これは資本主義の大きな流れと いうか、日本のバブル経済の流れ の中で、そういう現象が起きたの かも知れない。現状を何とか考え なければいけないということで、 官僚が考えざるを得なくなるわけ です。そこで官僚が政治家化し、 政治家が役人化してくる。
 衆院事務局時代の私は、最も政 治家化した役入の一人でしたね。 仕事は毎日、自民党や共産党、各 省庁も含めて国会の運営の制度あ るいは前例の問い合わせでした。 だから、毎日のように国家公務員 法違反をしていた。それをしなけれ ば国会が動かない。官僚側にもも ちろん族議員をつくったりする者も いて、民主党が敵としている官僚 政治の打破は大事なことではある が、現状、実現は大変なことだ。

藤原 官僚の中にも私利私欲で 動く人もいるが、誠実な人も沢山 いるから、国家は機能するのです。 私の全てを相似現象ととらえる目 で見ると、個々の中の役割を果た した人たちは、皆んなそれぞれ大 きさも違うし、タイムスパンも異 なっているが、少なくとも相似現 象としてパターンの形で捉えられ るのです。

平野 その相似現象が今、起きて いる。どういうことかと言うと、 官僚が政治家化したのは官僚にも 責任はあるが、政治家を選んだ国 民にも責任がある。ところが、民 主党はそういう思考をしない。鳩 山新政権で官僚を叩くとか、予算 の事業仕分けとか、いろんな形で 政治主導と言われることが、相似 現象として政治家が官僚化してき ていたものです。

英国に間接支配されるアメリカ資本主義

藤原 フランス革命でみると、貴 族と共にブルジョアがいて、農民 と共に商人がいる。こういうパター ンの中で、官僚の役割を貴族が演 じていると思う。その上に王様が いるわけだが、あの時期は絶対王 政から立憲王政に変わろうとして いた。それでは、立憲王政に変わ るパターンの中で王様に相当する のは誰かということに興味があっ て、私は米国でじっくりと観察し た。実はアメリカが王様をやって いたのであり、それが王様連合と 運繋していて、神聖同盟に相当す るのが国際金融資本で王様同盟だっ たわけです。
 その国際金融資本とかアメリカ がしたい放題して今、潰れかけて いる。
 しかも、アメリカの資本主義は 潰れて社会主義化しているが、英 国を中心にした国際金融資本が、 アメリカを間接支配してきた。私 はアメリカに30年住んだが、アメ リカは独立国の形態をとっている にしても、英国が間接支配してい た。アメリカは英国の手先として 戦争をやったり、金融を動かして いるように見えても、実は、弁慶 のようにヤリふすままであり、源 義経役の英国は奥に控えている。
 この間日本に帰ってきた時に、 ちょうど小沢一郎が英国に行った。 ところが、ジャーナリストは理由 が分からない連中ばかりで、中に は心臓の治療に行ったと言ったり していた。だが、私の眼には、英 国に相談相手がいるから飛んだと 見えた。英国でアメリカに対して どういう動きをすればいいかと知 恵を借りて、それが鳩山のアジア 共同体構想に反映したのです。い かがですか。

平野 要するに、無血革命が起き て、鳩山政権をつくってみたらど うもおかしいと小沢は痛感した。 官僚政治を打破すると叫んだ人間 が、逆に官僚化して、官僚のレベ ルでものを考え、官僚の意識で政 治をしようとしている。しかも、 国会を動かし権力を行使すること が、行政事務のひとつだという認 識があると、危機感を生んだ。
 小沢の考え方かどうか知らんが、 何かやはり、これではいけないと いうことを察して、小沢は9月の 後半にイギリスに飛んだ。おっしゃ るように、イギリスの統治や権力 行使の根っこが、どんなものかと いうことを探りに行き、特にアメ リカの扱いについての知恵を借り たのでしょう。

訪英から帰国した小沢が目指す「国会の改革」

藤原 私が旅行する時には、40年 前の昔の友達がそれぞれの国で閣 僚や財界のトップだから、彼等と 話をすれば、彼等のものの見方が 分かる。だから、彼等から答を教 えてもらわなくても、彼等の考え 方を探るだけで会う価値があるし、 小沢がそういうことを打診しに行っ たのではないかなと、相似象で理 解できる。

平野 その通りです。

藤原 世界のプロは、このように 相似象で見ているのであり、小沢 ならそれをやって当然です。

平野 それで彼が帰ってきて言っ たのは、「国会の改革だ」と。国 会を変えなくては308議席を取っ ても何もならん、何も変わらんと いうのが結論だった。

藤原 私が冒頭で、日本が非近代 であると断言した。そこから脱皮 するには、政教分離をきちんと行 うことです。それではじめて日本 は近代国家として国民の幸せのた めに政治は何をしなければいけな いかという出発点に立てる。そし て、前の政治が如何に悪かったか と、悪かった人は法治国家である 以上は、きちんと裁判で明らかに し、税金を八兆円注いで救った銀 行を十億円で外国に叩き売った行 為が、犯罪かどうかとはっきりさ せることです。
 これが革命におけるイロハで、 弾圧しろとかいうことでなく、悪 いことをした人たちは悪いことを したんだという形、いわゆる法を 破ったのだという形にしなければ 社会正義とか法における正義の問 題が抜け落ちてしまう。

平野 その部分、法に基づく支配 というのが、わが国では非常に問 題だ。特に、先の選挙で先生は3 50議席獲らなければいけないと 言うが、308人を獲った。これ は西松建設問題で小沢代表(当時) の秘書逮捕という、検察のファッ ショ化がなければ240という過 半数を巡る戦いとなったと思う。

藤原 そうですね。

平野 アメリカの資本主義の犠牲 になって、国民の生活がギリギリ になり困っているところに、自民 党のなかにも同じような人がいた が、小沢代表の件だけをやった。
 税金をでたらめに使った人たち を放置する限り、国民は納得しな いのだから責任を追及し、その上 で、日本を民主国家として再発足 させることが、民主党が遂行しな ければならない、民主革命のこれ らかの道だということで、鳩山政 権の今後の手腕を見守ることにし ましょう。


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